プロローグ 「偽者」

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プロローグ 「偽者」

0ed76e7d-6a48-4429-b29d-51242d739530 「はあっ、はぁっ……!」  激しい呼吸をしながら、必死に駆けるのは少年だ。きれいな金髪はホコリがかぶり、あちこち破れた服がみすぼらしい。少年の腕には「06442」と数字の焼印が押されていた。  真っ白で広い廊下は人影もなく、異様にしんとしている。その廊下をすさまじい勢いで少年は駆け抜けていく。  少年が走り抜けて数秒経ったあたりで、また廊下に音が響いた。がしゃんがしゃんと金属音を響かせて走ってきたのは、鎧を着込んだ大人の兵士だ。 「どこに逃げた、あのガキ……!」 「貴重な古代文明の機械遺産を壊しやがって……。犯人を捕まえないと俺達まで皇帝様に怒られるぞ」  二人の兵士はそう言い合うと、すぐにまた駆け出した。  少年は背後を気にしながら走り続ける。必死に逃げているうちに、少年は自分がどこにいるのかもわからなくなっていた。しかし自分の働いていた場所とはずいぶん雰囲気が違う。こんな白くてぴかぴかの石で出来た廊下なんて、走ったことも見たこともなかった。とはいえ、今はそんなことを考えている余裕はない。今あの兵士に捕まれば、間違いなく叱られる。それだけで済めばいいが、最悪の場合――  そこまで思って少年は背後を見た。まだ兵士は来ないが立ち止まる訳にはいかない。しかし少年の体力は限界だった。とっさに目に飛び込んだ扉の隙間に、少年は転がるように跳び込んだ。そして扉を急いで閉じると鍵を探し、それをすばやくまわした。  そこまでして、ようやく少年は大きく息を吸い、床に崩れ落ちるようにして座り込んだ。油断はできないが、一瞬でも逃げ隠れできる場所を見つけたのは、短い安心に違いなかった。  呼吸を落ち着かせながら、そこで初めて部屋の中を見た。薄暗い部屋だった。窓はあるのだが、カーテンが閉められて光が隙間から漏れる程度。まるで牢屋のような部屋だ、と少年は思った。目が慣れてくると部屋の様子が見えてくる。奥にはベッドもあり、小さな机と椅子もある。大きさ的には子ども用の椅子だろうか。割と物は少なく殺風景な部屋に思えた。  そこまで見た時、少年ははっとした。自分しかこの部屋にいないと思っていたのだが、見れば人影が見えた。ベッドの横に立ち、目を凝らせばその人影は少年の方を見ている。 「……だれかね、勝手にこの部屋に入ったのは……」
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