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大きくて深い森に
ひとりの魔法使いが住んでいました
名前はありません
ずーっと ずーっと独りだったので
名前は必要なかったのです
白銀に輝く長い髪と 透きとおるような白い肌
万華鏡のように色の変わる瞳と
とても美しい姿をしていましたが
それを知るものは 誰も居ませんでした
魔法使いは たくさん本を読んでいて
とても物知りでした
ある日 森の木々の上に
きれいな虹が見えました
「ああ 虹だ。虹の根っこには
宝物が埋まっているんだ」
それはとても有名な話なので
もちろん魔法使いも知っていました
「よし!探しに行こう」
魔法使いは支度をすると
森の外へと歩き出しました
とても大きく深い森ですが
魔法使いが迷う事はありません
しばらく行くと 森の出口が見えてきました
「おや?あれは何だろう」
木の根元に 何か固まりが有りました
近付いてみると
それはボロボロの青年でした
「もしもし。どうしたんだい?」
「はら…へった…」
どうやらお腹がすいているようです
魔法使いはうなづいて
食べ物を出してあげました
「どうして たおれていたんだい?」
魔法使いがきくと
お腹がいっぱいになった青年は
照れたように笑いました
伸び放題の栗色の髪に 日に焼けた肌
深い紫色の瞳が優しそうでした
「虹の根っこを探していたんだ」
でも いつまでたっても見つかりません
それでお腹がすいて
動けなくなってしまったのです
「僕も虹の根っこを探しにいくところなんだ。
一緒に行くかい?」
青年は喜んで 一緒に旅をする事になりました
大きく深い森の外には
いろんな所がありました
高い山
深い川
とても暑い所
とても寒い所
モクモクと煙を吐いている燃える山
ビュウビュウと冷たい風の吹く氷の平原
それでも二人は
虹の根っこを探して旅を続けました
そこは
見渡すかぎり何も無い
広い広い とても広い所でした
赤茶けた地面から きれいな虹が
空に向かって伸びていました
「あ!虹だ」
青年が嬉しそうに叫びました
「うん。虹だね」
魔法使いも嬉しそうに応えました
虹の根っこには宝物が埋まっているのです
「掘ってみよう」
「うん」
しかし地面はとても硬くて簡単には掘れません
でもきっと
魔法を使えば大丈夫
そう思って
魔法使いは気が付いたのです
もしも
魔法を使ってひとりで来れば
もっと早く
虹の根っこを見つけられたのかもしれません
でも……
青年との二人での旅は とても
とても 楽しかったのです
森で ひとりで居た時よりも
「どうしたの?」
不思議そうにきく青年に
魔法使いは言いました
「ねぇ。もう少し僕と旅をしない?」
「どうして?」
「ここの地面は硬すぎるから」
他の虹を探しにいこうよ
一緒に
「いいよ。行こう」
そう言って にっこり笑った青年に
魔法使いも にっこりと笑いました
「そういえば 君は名前が無いって言ってたけど」
「うん。必要無かったからね」
「でも、今はふたりだから」
名前を考えようよ
君にピッタリな すてきな名前を
虹の根っこに宝物が有ったのか
それはわからなかったけど
魔法使いは
大事な宝物を手に入れたのです
ーおしまいー
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