揺れる者たち

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「まず…最初に言い訳をさせていただくと…」 こういうところが自分でも子どもっぽいよね…と頭の片隅で思いながら湊さんのクスクス笑いを左耳で聞く。 「本日の良心の呵責を覚える以前に…昨日よりも前に決めていたことなので…今の気持ちと矛盾が生じています」 ‘はい、了解です。そこを踏まえて伺います…くっくっ…プレゼン風だな’ 「すごく真面目に言ってますから…こんな時間にするプレゼンが成功するとは思えないけど…」 ‘何事も挑戦’ 「うん…ドレス一式を揃えて頂いた時点で決めていたんです。ドレスが仕上がって試着に行く日には、私が湊さんに食事をご馳走しようって…ささやかなお礼に…高級でもなんでもないお店にしか行けないけど」 ‘高級かどうかは問題じゃないね、夕月がそう考えて決めてくれていたことが嬉しい。喜んでご馳走になるよ’ 「今感じてる良心の呵責とは真逆に私が誘っているのは矛盾しているでしょ?」 ‘うーん…そうとも一概には言えないかもしれないけれども…’ 「どうして?」 ‘誘う、誘われて会う…この言葉だけ拾うと夕月の言う‘良心の呵責’や‘道理に外れている’というものに思い当たって矛盾が生じているようだけれど…’ そうでしょ? ‘頭で考えないで、夕月が動く‘心理’が働いているならば矛盾していないかもしれないよ。それに何よりこの誘ってくれた食事は、今日の考え以前に夕月が義理堅い、対人関係においてとても律儀だということから来てるだろうから別問題。僕と会いたいって思って誘ってくれてもいいんだよ?’ 私の性格と考えを分かった上で、全て私に同意するのではなく他の考え方を示してくれた…そして最後に笑いながら言ってくれる一文も含めて心が軽くなる。
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