揺れる者たち

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「ゆう」 「お待たせしました、恭平くん」 「結構混んでるわ」 「そうだろうね。どこへ行ってもたくさんの人とその空気と…全てが浮き立つ季節だね」 「そう、ふわふわのキラキラだろ?オーダー並ぶぞ」 「うん。恭平くんも限定ドリンク?」 「ちょっと無理そう」 「間違いなく甘いからね」 「だろ?普通に珈琲。ゆうはどっちの?カカオと抹茶って書いてある」 「カカオ」 「迷いないな」 「だって‘ホットチョコレート’だよ?カカオだよね?抹茶チョコって美味しいのもあるけどホワイトチョコっぽかったら食べられない」 「ホワイトチョコ無理なのか?」 「無理、嫌い」 「覚えておく。持って行くからテーブル見てこい」 「うん、どこかキープ出来るかなぁ…って恭平くん、買ってくれるの?」 「当たり前。俺が誘ったしドリンク1杯くらい当然出すよ」 「…ありがとう。お願いします」 込み合う店内を見渡しながら何故か私の頭の中では‘当たり前’‘当然’このふたつのワードがぐるぐると回っていた。 「ん、どうぞ」 「わぁ、本当にツリー。ありがとう、恭平くん」 「絶対SNSを意識してるよな。ゆう、昔やってただろ?」 「会社に入ってすぐに止めた」 「見たことあるわ、俺」 「そうなの?」 「いつだったかな…玲子さんが見せてくれた。塗り絵のやつ」 「恥ずかしいねぇ、スッゴク前だよ」 カラーコーディネートの勉強をしながら大人の塗り絵をめちゃくちゃ凝って塗ったものをアップしていた時期がある。 「恭平くんはやったことある?」 「塗り絵?」 「違う、SNS」 「ない。一度もないなぁ…発信するものがない」 通りに向かって並んで座りたわいもない話をする。ん、甘くて美味しい。
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