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しばらくのコール音が止んだが声も物音さえも聞こえない。
「夕月?…もしもし?夕月?」
車のキーを手に玄関に向かいながら愛しい名前を呼ぶ。
‘…ぅん’
やっと聞こえたくぐもった声に僕は安心と不安が半分ずつだ。
「今、家?」
‘うん…’
「夕食は?」
‘食べた’
「ん、良かった…どうした?何してた?」
‘…ごみ’
ごみ?
「クリスマスのゴミ発見か?」
‘ん’
声というより喉を鳴らしただけの夕月は堕ちてる…まだこんなことは何回もあるだろう。イベントごとに記憶を塗り替えてやらないと…そして寄り添ってやらないとまだまだ前には進めない。
「ドライブしようか?それともケーキを食べる?コンビニケーキくらいしかもうないけど…夕月の部屋でも僕の部屋でもいい」
‘…エクレア’
「コンビニでいいか?車で食べてもいいし、とにかく迎えに行く。夕月はあのリップだけつけて待ってて。それはお願いだよ?あのリップつけて…わかった?」
‘うん…湊さん…助けてくれて…ありがと。ちょっと今…終わってたから’
「誰だってそんな時はある。大丈夫だ、待ってて」
ただの失恋と言えないような仕打ちを受けた後だ。毎日出勤して仕事をこなしている方が奇跡かもしれない。進む以前に不安定…明日のパーティーだって行かなくてもまた別のパーティーに行けばいい。焦ることはないよ、大丈夫だ、夕月…僕がただ手を繋いで側にいる。
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