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湊さんが待たせていたタクシーまで夢唯さんも一緒に来て
「夕月さん、もし何か失敗やハプニングがあっても全て男性のせいですから、ルールをあまり気にし過ぎずに楽しんで来てくださいね。にっこりと余裕を持って」
「そうだよ、夕月。いつも通りキョロキョロしていていいから」
「私のいつも通りは…キョロキョロ…?」
そう呟く私をタクシーに乗せてから湊さんも乗り込む。大使館までは20分ほどで到着だ。
表のイルミネーションを頼りに、まず一度目のセキュリティチェックを受ける。そして建物に入る時に招待状の提示とコートを脱いでのセキュリティチェックを受ける。そのシステムと動く人ばかりを見ていて、建物が視界に入ったのは天井の高い廊下でだった。
私はその壁に吸い寄せられて手のひらを当ててみる。湊さんの腕から手を離しドレス姿で壁に引っ付く私はおかしな人だろうと思い、すぐに壁から離れたが湊さんもすぐ隣で手のひらを壁に当てた。私ももう一度壁に触れ
「漆喰…見たことのない仕上がりなのはどうしてですか?何が違うんだろ…」
その温度と手触りを感じながら湊さんに聞いてみる。
「内装にも外装にも漆喰がよく使われる国なんだ。だけれども、それは日本の和漆喰とは異なる」
「湿度ですか?」
「そう。だから素材を両方を混ぜ合わせて、さらにこれを塗る職人は現地から呼んだ」
「そうか…見たことのないデザイン性のある塗りかたですね」
「いいんだけれど、日本人には理解できないルーズさもあるよ…ずっと歩けばわかると思う。進むよ」
再び腕を組んで歩く時には湊さんと現場にいるわくわく感があった。
「あ…この辺りですか?…わざと?」
「違う。職人によって技術の差があったんだ」
「それでデザインが崩れているような箇所がある…あり得ないですね」
「僕はやり直しって言ったけど‘こんな僅かな違い、誰が見るんだ?’とか‘何人もで作れば当たり前のことだから気にするな’って言われた」
「カルチャーショックだ」
そう言った私の耳にはオルガンで奏でられるクリスマスソングが聞こえてきた。
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