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「…湊さん」
「うん?」
「私…もう満足っていうくらい…オルガンのアヴェ·マリア…感動…」
こそっと僕の耳元で夕月が言ったから笑わずにはいられない。
「まだ始まっていないけど?」
いつもより近い位置にある夕月の顔を見ると視線が合い
「夕月、綺麗だ。よく似合ってる…僕は夕月のドレスデザインの素質もあるようだ」
本心を少しの冗談で包むように伝えると彼女はフッと頬を緩めた。
「このホールは…窓の位置が個性的ですね。窓がインテリア」
「うん。人が外を眺めるための窓ではなく光を効率的に取り入れるための窓」
夕月は周りの人たちの装いには目を向けずに、もっと遠いところや高いところを見ている。夕月らしく振る舞っているところで
「夕月が一番綺麗だな」
僕はもう一度本心を囁いた。耳を赤くした夕月とそれを見る僕にシャンパンが配られ大使の乾杯の音頭でパーティーの開始だ。お国柄だろうか…オルガンの隣の大きなツリーはライティングは控えめで、大ぶりのオーナメントがバランスよく飾られている。
「夕月、玲子さんに写真を送るって言ってただろ?食べて忘れる前にツリーの前で撮ってもらおう」
大使館員とメリークリスマスと挨拶を交わしてから僕のスマホで写真を撮ってもらう。僕のスマホというのが重要だ。
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