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「あ…」
そのあとは部屋の隅々まで順に視線だけを動かすしかなかった。ピアノルームよりも一回り小さな空間に広がる世界…
「私…こういうコーディネートがしたいと思ったことが何度もあって…」
「そうか…でも一般住居の応接室には求められないだろうな」
「そうですね…」
「ここは国際的な外交の場でもあるから特殊だよ」
「これは湊さんのイメージ画?」
「ここはまんまだな」
絵画や民芸品などの装飾に、障子や日本画が見事に融合するという2国のコラボが完璧な完成形で目の前にある。
「湊さん」
「うん?」
「私、来年の抱負が決まりました」
「今ここで僕が聞いていいのか?」
「はい。お願いします」
「どうぞ」
新年を待たずに抱負を語るのはイレギュラーだろうが、口にして自分に落とし込みたい。1週間後には新年だもの。
「インプット増量の1年にします」
「具体的には?」
玲子さんでも同じことを聞きそうだ。
「カルチャースクールなどの仕事は今決まっている以上に受けずに自分の休日を確保して、積極的に外へ出てたくさんのものを見聞きする。例えば、とても小さな個展だけれど気になるものがある…それが片道2時間も3時間かかる場所なら行かなかったんですけど来年は行きたいと思います。そういう刺激が欲しいというのは、今自分が必要としていることだと思うから」
「また成長期が来たね、夕月」
湊さんは私の話を聞いて、短く整えられた顎の髭を撫でながら微笑む。私は何故だか、その髭の感触を確かめたいような気持ちになって慌てて瞬きをした。
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