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「うん?どうした?」
瞬きをしたまま首を横に振る夕月に
「目、痛い?」
そう聞くと
「…ぅうん…何でもない…」
「睫毛、入った?」
「痛くない…大丈夫です…」
揺れる瞳に僕を映して欲しくて夕月を覗き込む。視線が合うと誰もがバンビと称する夕月の瞳に僕が映り
「…湊…さん…お髭…お似合い…です…」
震えているのかと思うほど弱々しい声が彼女と僕の間にある空気を揺らす。
「夕月のイメージ図通りだったらいいんだけれど」
「…はい…ちょっと近くて…緊張する…」
「ふっ…今さら?」
彼女の緊張の種類を確かめたくてそのまま夕月と見つめ合う…すると彼女の指先がそっと僕の顎の辺りに一瞬触れてすぐに離れた。
「うん?」
「…ごめんなさい…何でもありません…すみません…」
「そう?いつでも触れていいよ…手を繋いで戻ろうか?腕はずいぶんと組んだから気分を変えて」
理由はわからないが夕月が僕に触れてくれた。何かしら意味があるのだろう。僕は腕を組むよりも夕月の体温が感じられるように彼女の手をしっかりと握ってホールへと戻った。
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