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私を部屋の前まで送ってくれた湊さんは
「今夜は夕月が一番綺麗だった…夕月しか目に入らなかった」
と人差し指の背でそっと私の頬を一撫でした。そして
「作業着で連れて行きたい気持ちもある」
と言って笑う。
「私も…この小さなパーティーバッグでなければメジャーとオペラグラスは常に携帯しているんですけど…持って行けなくて残念です」
「また昼間に誘うよ。いろんな展示会の案内もたくさん届くんだけど行かないものの方が多いから、来年は捨てずに夕月にチケットを渡すようにする」
「ありがとうございます。私、ずっとこの仕事を続けたいので、枠組みを作らずたくさんの種類のたくさんのものを見て触って聞きたいと思います。今日だけでなく、昨日の飛行機も結構刺激になりました」
彼は僅かに頷くだけで何も言わなかったけれど優しく目尻を下げる。そして
「クリスマスイブもクリスマスも夕月と過ごせて…この上なくいい夜が続いたよ。ありがとう、夕月。おやすみ」
そう言い私の頬を手のひらで包んだと思うと…コートの裾を翻して短い廊下からすぐに見えなくなる。えっ…私にもお礼を言わせてよ…
「待ってっ…湊さんっ…」
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