8041人が本棚に入れています
本棚に追加
/435ページ
「夕月、何を言われても適当に聞き流しなさい。本当は相手しなくてもいい相手だからね」
私が帰る準備をしていると玲子さんが時計を見ながら言う。
「でも相手しないことにはまた来そうじゃない?だから、右から左よ?忘年会がなかったら私も行くんだけど…とにかく真に受けないで左から右」
さっきと向きが変わったなぁ、と思いながらバッグを閉めると
「夕月は適当に聞き流すとか真に受けないなんて技、持ってないぞ」
「…星本さん…何気なく失礼なこと言った…」
‘お年頃眼鏡’を外した星本さんに抗議する。
「失礼なことじゃなく事実を言ったんだ」
「ムムッ…出来る…かもしれないです…昨日出来なかったことが突然出来る瞬間って来るでしょ?」
「もお…お父さん、直前にゆづちゃんを煽らないで」
そう言った明子さんは私の肩を叩いて
「ムムッじゃなくて、にっこり余裕でいってらっしゃい。お化粧直して綺麗にして行きなさい。だいたいこんな風に見知らぬ人を呼び出す人に常識人はいないものよ?ゆづちゃんが下に出ることはひとつもないわ」
と私を給湯室の鏡に向けて押す。
「明子さんが一番いいこと言ったなぁ」
玲子さんの声を聞きながら、湊さんにもらったリップオイルをしっかりとつけて
「ご心配ありがとうございます。お腹が鳴るまでには引き上げます」
とにっこり手を振る。
「それでいいわ、ゆづちゃん。いってらっしゃい」
最初のコメントを投稿しよう!