変わる者たち

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「すみません、お待たせしました」 先にテーブルに座っていた彼女の元へ行き 「お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」 と立ったまま聞いた。名乗りもしない人と一緒に座る気はない。 「吉川渚です。どうぞ…飲み物は?」 どうぞと自分の向かいの席へ私を促しつつ、何も持たずにテーブルまで来た私を吉川さんが不思議そうに見上げた。 「お話を聞いたらすぐに失礼しますので…お話をどうぞ、吉川さん」 会釈してから私浅く腰掛けると 「ゆうさんは恭ちゃんと付き合っていないですよね?」 真っ直ぐ向き合って聞かれたのが、それ…私、名乗ったからゆうさんって言われるのも???なんだけど… 「はい、付き合っていません」 ああ、吉川さんはとても自分の見せ方を知っているなぁ…ピンクのアイライナーを目尻に引き、しかも目尻から少しだけはみ出るように長めに完璧なラインが出来上がっている。下まぶたの目頭部分のみにピンクのアイシャドウをオン…部分的に入れることで儚げなニュアンスになる。少し童顔な印象付けをしたいのだろう。とてもうまく成功していると思う。 「だったら、どうして恭ちゃんの部屋の模様替えなんてしたんですか?」 「…頼まれたからです」 「付き合う気がないのにそんなことしたら、家に帰る度に恭ちゃんがあなたを思い出すでしょ?」 「…申し訳ありません。お手数をお掛けしますが、全て撤去して頂いて結構です」 こういうことを言われるんだ…仕事のクレームっぽいな…ただそう思って何となく返事をする。星本さんに録音して聞かせた方がいい?私、いい感じに返事したよ。彼女の綺麗に彩られたむっちりリップを見ながらこれで終わればいいなぁ…と思っていた。
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