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湊さんは私の手を強く握って
「冷たい…」
すぐに助手席に私を押し込んだ。運転席に乗り込んだ彼はヒーターを強くしてから
「電話ありがとう、夕月…冷えたな…」
人差し指の背で私の頬を一撫でした。
「もう大丈夫。ここは暖かい」
寒い屋外で一人であんなメッセージを見たから凍りつくように固まってしまったんだ。暖かい場所で、最近連日聞く心地よいバリトンを聞くと急に空腹を感じるほどホッと…落ち着いた。
「湊さん、昨日はありがとうございました」
「うん、僕の方こそありがとう。今、行ってたところで‘うどんすき’の美味しい店を聞いたんだけど行ってみる?食べたことあるか?」
「うどんのすき焼き?」
「すき焼きじゃなくて鶏とか野菜とうどんの鍋で出汁が飲めるほど美味しい店らしい。関西からきたって」
「食べたことないです。コンビニで使うはずだった1000円を受け取ってもらえるなら行きたい」
「ははっ、了解」
湊さんはナビで場所を確認してから店に電話して、30分で着くと予約した。その様子を見ながらさらに頭が冷静になった私は、玲子さんにも湊さんにも頼ることなく自分でこのアクシデントに立ち向かえる気がする。
「湊さん」
「うん?」
「お店に着くまでの30分…私、アクシデントを乗り越えるから…湊さんとお喋りできないけどいいですか?」
「僕はまだ何も聞いてもいないけど…夕月が一人で乗り越えられるなら隣で見届ける。乗り越え切れなくてズルズルと壁からずり落ちたら、鍋を食べながら作戦会議をしよう」
「作戦会議?」
「そう。夕月がそのアクシデントを一人で乗り越えるための作戦会議。一人で乗り越える気があるなら最後までその方向性で頑張れ。今年最後にそれをやりきることが出来れば、来年のインプットの量と質が大幅アップ間違いなし」
「はい」
「よし、今から30分な…好きに頑張れ、夕月」
湊さんは何があったか一切聞くことなく、車を動かし始めた。私は慌ててシートベルトを外してコートを脱ぐとまたシートベルトをする。もう寒くないから。
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