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「OKは…出来ないかな…」
「しないのではなくて出来ない?」
「…その質問は年の功ってやつですか?」
「プラス、職業柄かな?酒が入ると、愚痴ったり、悩み相談みたいなことになる客も少なくないからね。‘出来ない’というのはどこからくるのかお兄さんに話してみれば?」
そう言いながらも久世さんはカウンターの中でアイスを綺麗に盛り付けてカウンターの向こうの端のお客さんへと持って行く。じっと聞いてもらわなくても、ちょっと自分の気持ちを整理しようと小さく口に出してみる。
「湊さん…素敵な…素敵過ぎる男性ですよね…誰しも惹かれてしまうと思います」
「夕月ちゃんも?」
聞いているのか…全く違うところを向いて作業しているのに…
「そうですね…プライベートな時間に一緒にいると今までと違う魅力があると思います」
「例えば?」
「仕事で関わっているうちは、先生と生徒みたいな感じでしたけど…プライベートになると…湊さんってすごく…ぴったり寄り添ってくれる時と、後ろから見守ってくれる時とがあって上からって全くないんです。正直…それがとても心地いい」
「ならOKでしょ?って、どうしてならない?」
それは私の真ん前で視線を合わせて聞いてくる久世さんは
「ん?」
と私をもう一度促すように言う。
「私…湊さんはご存じですけど…少し前にフラれたというか二股の末、相手に子どもが出来たっていう別れ方をしていて…」
「忘れられない?」
「何も知らないで突然聞いて突然終わって…すっかり冷めたので忘れられないということはありませんけど…未練があるはずもないし…」
「うん」
「それでも…去年のクリスマスはこうだった…お正月にはああしたこうした…って思い出すんです。それなのに誰かとお付き合いするなんて…とても失礼なことだと思うので…」
「ただいま、夕月」
久世さんに向かって答える私は後ろからぎゅうっと抱きしめられた…
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