進む者たち

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「…湊さん…」 「ん、夕月…会いたかった」 「っ…ぁぁぁい…ちょっ…と…手…」 「あと…10秒…」 「…聞いてました…?」 「ほんのちょっと」 「って…どの程度かな?」 「先生と生徒辺り」 「…久世さん…あっ…逃げた…」 「夕月」 「…もう20秒くらいかな…降参です…もう何も聞こえなくなる…」 「それは困る」 湊さんは私の頭にチュッと唇を落としてから隣に座る。そっとその顔を見ると 「ただいま、夕月」 彼はもう一度そう言った。 「おかえりなさい…明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します」 「ははっ…夕月ちゃん、真面目だねぇ。一気に仕事スイッチ入ったの?」 久世さんは湊さんに何も聞かずにビールを出しながら私に聞く。 「今年初めて顔を合わせたので…スイッチなのかな?普通です。それより…久世さん、湊さんが来たこと言ってくれなかった…」 「ごめん、ごめん」 「感情が1ミリも入っていない‘ごめん’を2回も…」 「サポートしただけだよ」 はぁ…もう言ってしまったことも、聞いてしまったこともどうしようもない。 「夕月の言ってた‘思い出す’っていうのは、運動会で転けたとか、このケーキもらったことあるとか…そういう記憶というだけで、想いがあって思い出しているわけではない。誰もが持っているただの記憶」 「…記憶…ただの記憶?」
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