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「うーん…ホテル仕様ですか?」
エントランスに入ると同時に夕月の見学タイムが始まった。オペラグラスを出しはしないが、置いてあるチェアは裏返している。
「そういうのは僕はノータッチだけどね」
「全体像が見たいのは昼間に来るべきですよね」
「そうだね。でもカフェバーは夜だけだから行こうか?夕方まではカフェなんだ」
「誰が来てもいいの?」
「いや、入居者と一緒ならいい。普通のレジがないんだ。毎月部屋ごとに請求される」
「なるほど」
「図書室もある」
「想像できない贅沢な暮らしですね…私、コンシェルジュって名前は知ってるけどホテルのコンシェルジュじゃなくマンションのコンシェルジュって何をするのかわからない」
「荷物を預かってくれるのが一番大きいな。ん、最上階到着」
夕月はカフェバーに入る前に立ち止まってぐるりと店内を見渡し
「湊さんの作った空間ですね…床が下げてある…」
「ワンパターン?」
「ううん、1階でこれをするのではなく最上階でというところがいい…このおかげで優雅な空間が出来上がっていると思います…ごめんなさい、ちょっと偉そうに言っちゃった」
天井を高く見せるためのちょっとした細工を目に留めてくれる。
「今日一番嬉しいことだ。じゃあ…1杯だけお付き合い願えますか?」
と右腕を軽く曲げると、一瞬その腕を見つめた夕月がそっと腕を絡めてくれた。このペースでいい。昨夜‘ちょっと待って’と言われたところだ。僕からすれば今すぐ付き合って結婚したって構わない。だけれども、僕が夕月の立場だったら?付き合っていた女性が知らない間に妊娠して、突然男を伴って僕に別れを告げるんだ…それだけで不安定にもなるし、異性に対して不信感を持つことも想像できる。そんな中でも夕月は大きく一歩を踏み出そうとしている。それも僕に向かって…だから待つよ。夕月が踏ん切りつけたら生涯離さない。それだけだ。
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