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「夕月」
ダメだ…だめ…その声はダメ…首に添えられたままの彼の手のひらには、私の高速で大きく波打つ脈が伝わっているはず。返事をしようと口を開けたが…ドキドキのあまり音が出て来ない。
湊さんは、間抜けにも半開きとなってしまった私の唇を親指でなぞる。
「夕月」
下唇をもう一度なぞりながら再び私を呼んだ彼は
「生涯大切にすると誓う…今この瞬間から僕と付き合って欲しい」
真っ直ぐに私を見つめる。
「昨日、待つと言ったばかりで…だけどやっぱり僕はもう夕月がいないと困る…」
「…こ…まる?」
「夕月の声が聞きたくて、会いたくて、触れたくて…困る」
そう言う間に彼の手のひらは私の頬を包むように少し上へと移動する。
「今、万が一って話もしたけど…夕月のことをずっと守るよ、僕が。実際に頼るのが玲子さんであったとしても、今みたいに前もって夕月を守る努力はするし、あとも夕月が笑っていられるようにする。夕月を抱きしめる権利を…資格を…僕にくれないか?」
彼の手のひらは私の頬を包んだまま、2本の指…人差し指と中指が耳たぶを挟んで弄ぶ。
「守るといっても、夕月のやりたいことに制限はもちろんしない。僕は夕月を一人の自立した人として尊敬しているし応援している。その応援を夕月の一番近くで生涯させてくれないか?」
ああ…私は湊さんが好きだ…
「…自立した女性と言わずに…自立した人って…そう言ってくれる湊さんが…好き…」
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