進む者たち

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湊さんは静かに立ち上がると片手で私の手を取り、もう片方の手でそっと椅子を引く。操り人形のように立ち上がった私の額にチュッとキスをした彼は、そのまま手を引いて歩き始めすぐにエレベーターに乗る。 ぎゅっと‘離さない’と言われているように強く握りしめられたままの手に全神経を奪われながら彼と並んでエレベーターのドアを見つめ、下降する箱が止まるのを待った。 エレベーターが止まりドアが開くと、彼はまた私の手を引き1枚のドアに手を掛けた。それだけでカチャ…っと解錠された音がしたので湊さんがリモートキーを持っているのだろうと想像できる。 「夕月」 オートセンサーライトがどこかで小さく光ったけれど、その位置を確認することも出来ずに湊さんの腕に抱きしめられた。彼の右腕が私の腰にぐるりと巻き付き、背中から上を向いた左腕はその手でしっかりと私の頭を引き寄せ抱え込む。そしてその頭に彼の頭がぽすっと乗った。 「夕月」 ただ私の名前を呼ぶ湊さんの腰にそっと腕を回すと、彼は私の頭に頬ずりのちキスをして… 「夕月…これからどんな時も一緒だよ…拘束するのではない。僕も夕月もそれぞれのフィールドがあるからね…それでも気持ちはずっと寄り添って、精神的にずっと支えていく…そういう意味でどんな時も一緒だ」 「…嬉しい」 思いがけず掠れた声が出てしまった私の背中をポンポンと軽く叩いた彼は、私の様子を窺うように少し顔を離して私を見つめ 「とても愛しくて…愛してる、夕月」 ゆっくりと唇を重ねた。
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