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「夕月は精一杯の誠意で恭平くんに応えたでしょ?違う?それに対する仕打ちがこれなら、こちらも考えないといけないわね」
‘違いません’
玲子さんによってスピーカーにされた僕のスマホから恭平くんの声がする。
「夕月が何かした?ただ皆と仲良く仕事していただけだと思うんだけど?」
‘はい…’
それもその通りだ。好きになったのはこちらの勝手だ、夕月に何の非もない。
「じゃあどうするのよ?寒ーい外でこんなことに時間取ってる身にもなりなさい」
‘すみません’
「ダメ。この状況で、申し訳ございませんくらい言えないのは終わってるわよ、立花くん」
‘あのぉ…ゆうさんは恭ちゃんと連絡取ってないんですかぁ?’
恭平くんから立花くんに呼称が変わったことに夕月と顔を見合せ、彼女の心配顔に僕が額を寄せた時、玲子さんを飛び越えて女の声がする。その媚びるような声と視線に答えるつもりはないので、玲子さんに任せて僕は夕月の手を掴んで僕のコートに一緒に入れた。
‘取ってるわけないだろ。渚、帰れ’
「だってわからないんだもん。どうして恭ちゃんがタペストリーを捨てないのか」
‘渚にセンスが…’
「立花くん、それは渚チャンと二人でごゆっくり話してください。とにかくこんな茶番に付き合うのは二度とごめんだわ。社員を守るのは私の役目ですから、立花社長と三宅部長には事実だけ伝えます。プライベートでは…湊さん、夕月をお願いいたします」
「はい、玲子さん。ご心配なく」
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