目撃者たち

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うちの会社はビルの1、2階を借りており、隣のビルの地下にあるカウンター席のみのお寿司屋さんに玲子さんは私を連れて来てくれた。カウンターのL字部分に2人ずつ、顔が見えるように座る。 「大将、おまかせでお願いします。まずはみんなビール?」 さっさと一番奥に座った増山玲子(ますやまれいこ)は、うちの会社の社長だ。二級建築士の資格を持つ彼女はリノベーションとリフォーム専門の‘玲ハウジング’を経営する40歳、独身女性。 日によって雰囲気を変えて自分の見せ方で遊んでいるチャーミングなお姉さんだ。今日はバリキャリ風のタイトなパンツスーツだが、昨日は‘玲ハウジング’と刺繍の入ったデニムのつなぎを着ていた。つなぎを着る必要はなくても気分で着たいから、と彼女がオーダーしたデニムのつなぎを私も持っているが一度も着ていない。 玲子さんは、いつも濃いめのアイメイクとどんなシーンにもマッチするベージュ系の大人ネイルに仕上げて、声も態度も身長も大きく堂々としている。 「はい、ビールで。でもゆうはビール飲めるか?」 「一口は飲めるようになったの」 「おっ、28になった途端に成長か?」 玲子さんの隣で私のことを‘ゆう’と呼ぶ男。先ほど私のバッグを持った男は、玲ハウジングが使う電気設備会社‘立花電工’の立花恭平(たちばなきょうへい)29歳。そして私の彼だったはずの林太一と斉藤さんは‘立花電工’の社員なのだ。 初めて恭平くんに会った時、彼は私の名刺の名前を‘ゆうづき’と読んだ。それからもわざと‘ゆうづき’と呼ぶ彼を睨んでいたのだが、なにしろ彼は玲子さんのお気に入りだ。こうして何度も一緒に飲み食いするうちにいつの間にか私の呼び名は‘ゆう’に定着していた。ちなみに、玲子さんも私も彼を‘恭平くん’と呼ぶ。社長も立花さんだから、これは皆がそう呼ぶんだ。
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