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「夕月」
「時間的にはそう言うのかな…もう暗いから夜の月っぽいけど」
車に乗ってすぐに恭平くんが指さした方へ視線を向けると三日月が見える。
「俺、ゆうと出会ってから夕方の月が好き。たぶんそれまでは意識して見たことがなかったんだろうけど…最初にゆうづきって読んだ時にまず響きが気に入った。それからよく目に入る」
「ゆうづきって言ってたね、最初。ゆづきって人はいるし、みんな‘月’が付くけど‘夕’ではないのが逆に不思議だな…自分は小さい時からこれで書いてるからなぁ」
私が自分の手のひらに‘夕月’と書きながら言うと、恭平くんが左の手のひらを私の方へ出す。
「…お手されてるのかな…私…」
「する?」
「しない」
「俺にも夕月って書いて」
「…どうして?」
「書いて欲しいから」
「わがままだ」
「おねだりだよ。お願い、ゆう」
私が彼の言う通り‘夕月’と指で書くと、恭平くんは嬉しそうに手のひらを握りしめる。何だか居たたまれないほど恥ずかしくて
「太い油性ペンで書けば良かった」
と言うと恭平くんはにっこりと微笑んだ。
「今度書いて。楽しみにしてる」
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