接近者たち③

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「じゃ…家まで送る」 恭平くんは私の部屋へ到着するまで何も言わなかった。もちろん、私も何も言わない。二人とも何も話さないまま私の部屋の下へ着いたとき 「ゆう、俺…ゆうにちゃんと甘えてもらえるように頑張るわ」 そう言いながら彼はロックを解除した。 「昨日と今日、楽しかった…ありがとう、ゆう。またな」 私はドアに手を掛けたまま 「頑張らなくていいよ」 と、微笑んだ彼に逆らうように可愛くないことを言って車を降りると 「気をつけて帰ってね」 それだけ言ってドアを閉める。そして見送ることも振り返ることもせずに部屋まで走った…我ながら子どもっぽい行動に呆れてイライラする。 ちゃんと恭平くんは最後に言ってくれた‘ゆうにちゃんと甘えてもらえるように…’って。私が送ってと言わなかったことを言っているのだろう。でも私だって、付き合っているわけではない人と週末2日間べったりにならないようにと考えての行動だよ。それでも‘ありがとう’と言えなかったのは私が悪い。 何も考えたくない…私はいつもより丁寧に部屋の隅々まで掃除機をかけると、チョコグラノーラを少し食べてからスーパーへ向かう。 「寒っ…」 コートのポケットに手を入れて足早に歩き、スーパーの手前のコンビニを通り過ぎるとき‘やっぱり誰かと付き合うって難しいのかも’‘太一にだって私が無意識に嫌な態度を取っていたかも’‘やっぱりコンビニかスーパーに陳列してくれるのが一番だよ。今なら何も言わず、でも私の作ったご飯を一緒に食べてくれる人を選んで購入だなぁ’と最後はあり得ない願望を胸に抱いた。
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