揺れる者たち

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揺れる者たち

「…って…以上です」 月曜日の朝、早めに事務所へ行くと、さらに早くから仕事をしていた玲子さんに催促され、ドレスショップから昨日のことまで大雑把に話す。 「あははっ、で?恭平くんは放置?」 「ごめんなさいとありがとうとメッセージは送りましたけど」 「何て?」 「おう、また誘う…って…もういいんだけどな…はぁ、とにかくもう少し大人になります。はい、働きます」 そう言って掃除の続きをすると 「ダメダメ、夕月は今のままが絶対に一番魅力的だって」 「どーもー」 「信じてないね?夕月の魅力は大人っぽさと子どもっぽさの混在だってば。恭平くんの気持ちも考えると容易に送ってと言えなかったのが大人の夕月で‘行かない’だけでだんまりになったのが子どもの夕月。それでいいじゃない。大人の男でさ‘少年の心を持ち続けているのが魅力’とかって聞くけど、女でそれもあり。気にすることも変わることもなく、今のままを受け止めてくれる人と付き合えばいいのよ。私はどーんと受け止めてるからね。逆に変わったら解雇だね」 「あははっ…横暴な経営者発見。でもその横暴な経営者のこと私、大好きなんですよね…困っちゃいます、ふふっ」 ゴミを集めて下の鍵を持ち、いつも通り1階を開けに行く。ブラインドをゆっくりと上げながら出勤してきた星本さん夫妻と目が合い手を振る。そしてこの日常だけで十分幸せに生きていけると思った。
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