揺れる者たち

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「…あ…リップオイル…」 「どうぞ、夕月。このままポケットかバッグに入れていいよ。すぐに使えるように箱は捨ててもらった」 彼の手のひらに乗るのは1本のピンクベージュのリップオイル。さっきモコモコポーチの隣のブランドを通りすぎる時に一瞬足を止めて見たものだ。今も私はこれのカラー違いを使っていて、さっきは新しいカラーが出たかな?と一瞬目をやったのだ。 「ありがとう、湊さん。これ好き」 「良かった」 「ナチュラルカラーだけど重ねると濃くつけられるっていう調整ができてこのリップオイルをずっと使っているの。これは定番に似てるけど定番のピンクベージュより僅かにピンクの新色…もらっていいの?って、すっかり握ってます…ありがとう」 「どういたしまして」 湊さんは私の頭をゆっくりと一度撫でた…と思ったら、そのまま一瞬その手が私の頬を包んだ?一瞬過ぎてわからないけど、ドキドキしているから…きっと触れたよね… 「もう閉店近いな。出て何か食べよう」 クリスマスプレゼントを選ぶお客さんで混み合う中、彼は私の背中に手を添えて人混みにぶつからないよう庇いながらもスイスイと出口へ向かう。冷たい外気を吸ったとき 「寒いけど気持ちいい」 「暖房キツすぎたよな…僕、ビールが飲みたい。付き合ってくれる?」 「はい、お供します」 「じゃあ、こっち」 歩きながら聞いたお店はクラフトビールバーだけど、ワインも珈琲もあるカフェ風でピザは食べた方がいいらしい。 「私は冷えたスパークリングとピザにします」 「店が見えないうちからオーダーか?」 「すごい?」 「すごい、すごい」 「あー残念…一度ならいいけど、二回言うと嘘っぽい」 「可愛いって聞こえなかったか?」 「……まだ着かない?」 「ははっ、見えたぞ。ここからオーダー叫べば聞こえるんじゃないか?」 「湊さんがやってみて」 「あー着いてしまった…ん、どうぞ」 彼はクスクスと愉しそうに笑いながらドアを引いて私を先に通した。
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