揺れる者たち

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楽しい食事を終えて、久世さんの店から百貨店の大通りまでの道を復習する。 「ありがとう、たぶん大丈夫です」 「うん。暗い時間の逆走だから分かりにくいだろうけど、夕月は運転もするし現場にも一人で行くこともあるし方向音痴でないことは分かっているから大丈夫だと思う」 大通りまであと5メートルという辺りで後ろを振り返った私に合わせて足を止めた湊さんは 「さっきの話…」 私と向かい合い、裏通りの街灯の中でも十分に真剣だと分かる表情で重厚なバリトンを私に届けた。 「楽しみが出来て仕事も周りのみんなのおかげで順調で、働いて食べて寝て生きていけると自信が持てた…そう言っただろ?」 特に返答を求められている音色ではなかったが小さく頷くと、湊さんも同じように頷き私の頭に手を置いた。 「いいと思う。性別にも年齢にも関係なく自信を持って自立している人…特に精神的に自立している人は美しいと思うから夕月の言葉に異論はない。ただ…」 彼は言葉を区切ると、頭に置いていた手を滑らせて私の頬を手のひらで包む。 「その夕月の生活の中に…人生の中に僕を登場させて欲しい」 そう言った湊さんの親指が頬骨辺りを撫で始める。ちょっと待って…視線も頬も何もかも熱いんですけど…
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