揺れる者たち

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「…とーじょー…です…か…?」 「そう」 「…」 何…?どうやったら‘そ’と‘う’の二文字にそんなに甘い色を付けられるの?周囲が暗いことは幸いだ…逸らすことのできない湊さんの瞳の色と温度が変わったことはわかるが、私の耳が赤くなったことはわからないだろう… 「寝る前に…僕と今日のこと話そうよ…とか…」 「朝起きて…おはようって言い合おう…とか…」 「一緒に食事をしよう…とか…」 「どこかへ行く時には…僕も一緒に行こう…とか…」 「ただ…僕に隣にいて欲しい…とか…」 頬は大きな手のひらに包まれたまま、彼が話すたびに親指がゆっくりと動く。その指一本がだんだん官能的に思えてくるほど私の体温が上昇する。 「いつもいつもでなくていい。さっきも言ったけど夕月は立派に自立して自分の足でどこにでもいける大人の女性…しっかりと自分の足で立って、走り回っている。その中に僕を登場させて欲しい…今日のように僕も誘うし、時々夕月も僕を誘ってよ…夕月の生活の中で僕を思い出して時を共有する瞬間を作って欲しい…自然にそうなればベストだけれど…いつかくるその日を待ちきれないほど僕は夕月のことが好きみたい…ごめん…」 「……ごめん…?」 「うん…ごめん。急かすつもりも焦らすつもりもない…今も本当にそれはないんだ…それなのに‘自然’を待てずに意識的に‘瞬間を作って’なんて矛盾してるだろ?だから…ごめん…僕の気持ちが夕月に動かされているんだね…夕月の前では完璧でいたいけれどそうはいかないみたいだ」 「…ちょっと…分かった…意識的に瞬間を作る…」 湊さんの言いたいことは分かった気がするけど…そんなことしたら私が湊さんを好きになるんじゃない?だって…この熱はそういう類いのものでしょ?
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