揺れる者たち

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「ただいま」 「おかえりなさい。玲子さん、ありがとうございます」 玲子さんが湯飲みを持って上がってきた。それを受け取りながら 「星本さんはもう出られたんですか?」 「うん、3人一緒に出てもらった」 「そうですか。恭平くんが訂正のあった請求書のオリジナルを謝罪を添えて持ってきてくれました。明子さんに回します」 「お願い」 仕事の報告を玲子さんがキーボードを叩きながら聞いてるので忘年会の話はせずに湯飲みを洗う。そして次は珈琲だろうと豆をセットしながら時間を確認する。もうすぐお客様が来られるね。 「玲子さん、午後も13時14時と約束が続いているから、明子さんが帰って来られたら私、ベーカリーに行ってパンを買ってきておきます。外で食事の時間ないでしょ?」 「助かる。合間に食べるから多めに買っておいてくれる?余ってもいいし」 「了解です」 「じゃあ、下に降りておくわ」 「はい、到着されたら内線鳴らしてください。珈琲持って行きます」 ひらひらと手を振って出て行った玲子さんと入れ違いに明子さんが帰って来た。恭平くんが持って来た請求書を渡すと 「郵送で十分なのにねぇ、ゆづちゃんに会いに来たのかしら?」 明子さんはさっさと封筒だけを捨てながら私に言う。 「そんなことはないと思いますよ?明子さん、今日はお昼はどうされます?私、この珈琲をお出ししたらベーカリーまで行きますけど…玲子さんの時間がないので」 「今日はお父さんが外で食べるのが分かっていたから、おにぎり2個だけは握ってきたけど、塩パンが食べたいわ。ひとつお願い」 「はい。一緒に買ってきますね」 恭平くん…そんなことはなかった。仕事で来たんだから、当然あの週末のような甘さは皆無だったし、チェアが届いた報告をしてくれただけだ。きっともう、いつも通り玲子さんたちと一緒にわいわいする方が楽しいと気づいたんだと思う。私のお子さまな面倒くささに気づいただろうから。
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