揺れる者たち

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14時のお客様が1時間ほどで帰られ、全ての約束は終えた玲子さんがゆっくりとチーズカレーロールを頬張るのを見ながら 「玲子さん、冷蔵庫にフルーツサンドがありますよ。私、一旦1階を片付けてきます。あと1時間もしないうちに次のお客様が来られるので」 今日階段を降りるの何度目だ?と駆け降りる。さっきは1名の来客で次は2名。椅子を整えたあと、お客様が業者さんや職人さんではなく依頼者様なので、施工例等を湊さんがわかりやすいように少し手前に置き、私が使うような資料を奥に押し込む。これで迷わず資料を使ってもらえるはず。西日が射してくるのでブランドを調節すると 「夕月、お疲れさま」 「こんにちは、湊さん。お疲れ様です。ここ、もし施工例の資料を使われるならまとめて出してあるこれらのファイルです。左が一番新しいものです」 「ありがとう。たぶん今日は使うよ」 「新規の初めての打ち合わせですもんね」 「そう。この前僕が現状の確認にだけ行ったところ」 「珈琲でいいですか?緑茶か紅茶でも」 「緑茶にしてくれる?もう珈琲は飲んだから」 「わかりました」 打ち合わせのために湊さんが来た。 「夕月、そのリップ昨日の?」 「…はい…ありがとうございました」 「似合うね…うん、すごく似合うよ。嬉しい」 「私もすでにお気に入りです」 「セーターの深いパープルともいいし、夕月の顔色に合ってるんだな…僕は自分を誉めることにする‘夕月に似合う物を選んだ自分’を」 「…ぁっと…私も誉めようか…な?でも…湊さん…」 「うん?誉めて」 「…誉めるけど…事務所で甘いのはやだ」 私は彼の甘い音色に抗議する。 「愛しさが溢れてた?善処する。よし…神戸さん、2階へ挨拶に行くから一緒に上がろうか?」 そう言ってドアを開けて私を先に通す彼に言った。 「神戸さんなんて玲子さんの前で言ったら大騒ぎですよ…」
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