告解

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「雛杉は…人が来ないように見張っていた…。間宮は、耳を塞いで蹲っていた…。俺は…あいつらに拷問される…園太郎を………。」  不意に言葉が途切れる。細い人差し指が成川の口元へ伸びていた。それは紛れもなく、古村の指である。 「次の質問をしよう。彼を殺したのは誰?」  優しい声色の奥には、恐ろしく冷たい形相があった。 彼の前に立つ成川の気分はまるで、法廷に立つ被告人のようであった。 ありもしない手錠の冷たさを全身に感じ、存在しない無数の目に睨まれている気がして仕方なかった。それでも尚、彼は話し続ける。 「……あの場にいた全員が、園太郎を殺した。自分たちのやっていることの残虐さを知りながら、誰も止めようとはしなかった。俺たちは皆…ただの犯罪者だ。間宮、榊原、雛杉、樋口、蓑輪…聖太郎。…そして俺だ。」  机の脚が擦れる音が響き、皆の視線が後方へと向けられる。 そこには酷く慌てふためいた様子の樋口がいた。ひびの入った眼鏡の奥にある瞳を見開き、彼は成川に向かって叫んだ。 「…ま…待ってよ…!僕は…っ、僕は……あいつらほど惨いことはしてない…!成川くんっ、雛杉くん…っ。き…君たちだって僕と同じ、脅されて仕方なくやっただけだ…!そ、そうだよね…っ!?」  その場にいた全員、その言葉が苦し紛れの弁解としか思えなかったのは、彼が片方の口角のみを吊り上げた不格好な笑みを浮かべていたからだろう。 必死に己の身の潔白を証明する彼を、近くにいた佐倉は憐みを込めた目で半ば睨むように見つめていた。 「そ…園太郎くんは…仕方なかったんだ…っ!だって…逆らったら…それこそ殺されるのは…ぼ、僕らじゃないか…!そうだろ!?君だってそう思って…」 「黙れ!!」  成川の怒号に喋り続けていた樋口は肩を大きく震わせ押し黙る。 「…俺も、お前も…あの場にいた全員が同罪だ…。あの時いくらでも…解決策はあったはずなんだ…。だが俺はあいつを助ける方法を考えるよりも早く、胡村聖太郎の言いなりになった…。俺たちはもう人殺しなんだよ…!」  成川は悲嘆と怒り、押し寄せる後悔に身を任せそう告げる。 その言葉に背中を押されたように、雛杉は顔を覆い倒れるように頭を床へ打ち付けた。 「…っ…ごめん……ごめんなさい……園…ちゃん…。」  静かに聞こえる嗚咽に、佐倉と成川は互いに顔を見合った。驚くほど全く同じ顔だった。 双方とも、締め付けられる胸の痛みに耐えるように眉間に皺を寄せ、唇を震わせていた。 「…おい転入生、もう良いだろ…?こいつら二人はマトモだ。これ以上咎める必要は…」 「あと一つ、どうしても聞きたいんだ。」  佐倉の言葉を遮るようにそう呟いた古村は、目の前の成川を無表情で見つめる。 凛とした鼻筋に、宝玉のような瞳。結ばれた口を覆う柔らかな唇。 正に黒い制服を身に纏った天使だった。人間の罪を暴くために地上へと遣わされた天使。ソドムの天使だった。
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