楽園

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「楽園?」  鬱蒼と茂る木々の中を歩きながら、佐倉は眉を顰めそう呟く。 「ああ。町の奥にある一際大きい工場…。俺たち生徒会はそこを楽園と呼んでいる。あの場所は言わば本拠地だ。」  佐倉の一歩先を歩く成川の言葉に、隣を歩く雛杉は小さく頷く。 先頭を行く古村の背を目指し、一行は草木の中を歩いていた。古村と成川たちに挟まれている樋口は、事あるごとに森の中を見渡し一人で怯えていた。 「じゃあ、露斗宮もそこにいるってことか?」 「…恐らくな。」 「…今から助けに行くことはできねぇのかよ?」 「……それは難しい。あの工場は内部の構造が複雑なんだ、それに警備の人間もいる。俺たちの裏切りが知られれば、その場で殺されるだろう。」  佐倉は納得のいかないような表情で歯を食いしばる。 それからしばらくは草を踏み鳴らす音だけが周囲に響いていた。誰も何も話すことなく、皆が緊張した面持ちで古村の後を歩いていた。 やがて古村の足が止まり、前方に朽ちた教会が姿を現す。それはかつて露斗宮と佐倉が共に訪れた場所だった。 「お前、なんでここに俺たちを連れて来た?」  後方からの佐倉の問いに、古村は何も答えなかった。代わりに後方へと振り返ると、怯えた顔の樋口を指差す。 指を差された樋口は肩をすくめ、今にも倒れてしまいそうな勢いで震えだした。 「彼は駄目だ。どこか近くの木に括っておこう。」 「は…?」  古村の言葉に佐倉は首を傾げる。 「教会の中に見せたいものがあるんだ。本当に心から信用している君たち三人にだけ見せたいものが…。」  古村は肩にかけた鞄の中から縄を取り出すと、それを皆の前に突き出し緩やかに笑ってみせた。成川と雛杉はそんな彼に向けてどのような反応をすれば良いかわからずに、ただ茫然と立ち尽くしていた。そしてその傍らで佐倉は「そんなものなんで常備してんだよ…」と呆れたように呟いていた。
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