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露斗宮が一歩でも校舎の中に入れば下駄箱に背を預け煙草を嗜んでいた生徒たちは「次はあいつにしようか?」と彼を一瞥しながら相談し始めた。
きつい煙草の香りが鼻を突く。上履きを履き足早にその場を去り廊下を歩けば、今度は彼の足元に小さな少年が倒れこんだ。
「あ…助け…」
露斗宮の目の前に倒れた生徒は血の垂れる鼻を押さえながら彼に手を伸ばした。だがその手が握られることはなく、後ろにいた不良たちがその生徒の頭を鷲掴みにし、どこかへ引きずっていった。耳に彼の絶叫が響く。
下唇を嚙み、拳をぎゅっと握りしめた。本当は目も閉じたかったがそうはいかない。目を閉じれば最後、その瞬間に不意をつかれ殴られてしまうのだから。耳を塞いでも同じことだ。この場所では一秒でも油断は禁物、気を抜くことは許されなかった。
教室の扉を開ける。生徒達の数人が露斗宮の方へ視線を移した。しかし、彼は気にせずにそそくさと席に座る。
「露斗宮。」
席に着けばすぐに彼に声がかけられる、露斗宮の身体が震え始め、心拍数が上がり始める。
顔を上げればそこにいたのはいかにもな不良少年たちが佇み露斗宮を見下ろしていた。
「露斗宮、今日の放課後…空いてるよな?」
にやにやと笑いながら見下ろしてくる不良少年たちに、露斗宮は不安そうな顔で答える。
「今日は…どうしても外せない用事があるから…。」
不良少年たちの表情が変わったのがわかり、露斗宮は後悔した。
そのうちの一人が咥えていた煙草を口から離し、露斗宮に近付ける。煙草の独特な香りが漂い、先端から上がる煙が教室の天井に辿り着く前に消えてゆく。
「何…? 俺らに不満でもあるの?」
明らかに不機嫌なその声に露斗宮は下唇を嚙み、俯く。薄汚い机を見ながら黙り込むしか方法はなかった。不良少年たちの文句が耳に入り、手の震えが増す。
「なぁ露斗宮、袖捲ってみろよ。」
その言葉に露斗宮は顔を上げた。煙草が眼前に突きつけられる。
何をされるのか既に分かっていた露斗宮は制服の袖を捲るまいと力強く掴んだ。見かねた一人の不良少年が露斗宮の腕を袖から引き剥がし、その隙にもう一人が露斗宮の左腕の袖を捲った。その腕には無数の火傷痕が浮かびあがっている。
「ほら、あんまり暴れると余計痛くなるぜ…?」
ケラケラと笑いながら煙草を腕に近付ける不良少年に、露斗宮は諦めたかのように抵抗を止め、痛みに耐えるべく血が滲みそうな勢いで唇を噛みしめた。
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