無法者の学舎

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「それくらいにしとけ、お前ら。」  煙草が腕に押し当てられる直前、不良少年たちの後ろから低い声が聞こえた。煙草を持つ不良少年の手が止まり、露斗宮の前から退いた。 「相手なら隣のクラスの奴が良いの捕まえたからよ、ソイツはいらねぇ。」  新たな煙草の煙が見える。銀色のピアスが鈍い光を放っている。明るい金髪が露斗宮の視界に入った。 「なぁんだよ佐倉、良いところだったんだぜ?」 「根性焼きなら放課後やれば良いだろ。」  そう言って面倒くさそうに煙草をふかしているのは、このクラスでは一番喧嘩が強いと言われている佐倉(さくら)だった。 「良かったな露斗宮、痕が増えなくてよ。」  不良少年たちは露斗宮の肩を強めに叩くと、その場から離れていった。 「…あ、ありがとう…。」  露斗宮は目の前にいる佐倉に小声で言った。 「は? なんで礼言ってるわけ…?」  佐倉は面倒くさそうな表情のまま眉をひそめ、露斗宮をより一層鋭い目つきで見下ろした。変声期を終えたその声はあまりにも低く冷たく、露斗宮の頭の中によく響いた。 「…ごめん、なんでもない。」  露斗宮は少し俯きながら呟いた。 「はっ…情けねぇ、一生そうやって下向いて生きてろよ。」  佐倉は露斗宮を鼻で笑い、再び煙草を咥えると自分の席に戻っていった。  始業のチャイムが鳴る。 だが誰一人静かになる様子もなければ大人しく席に座る様子もない。 教師は来ない、この学校は生徒も生徒なら教師も教師である。まともに授業をする教師など一人もいない。 放課後まで、クラス内は地獄のような光景なのだ。  露斗宮は窓の方を見た。数枚の窓ガラスにはヒビが入っており、ところどころに乾いた血液がこびりついている。 窓際に集まった不良少年たちの中心には目隠しされた少年が座っている。その口には開工具らしきものがつけられ、少年は苦しそうに唾液を垂らしていた。 その少年に向かって不良少年たちが何かをしているのを露斗宮は見たがすぐに視線を逸らした。あまり見たくはなかったのだ。  前の黒板を見る。 白いチョークで書かれている文字はほとんどが卑猥な誘いや薬物の販売先の案内だった。 謎の電話番号も羅列している。  奇抜な髪の色、歪な刺青、転がる酒瓶。 とても中学生とは思えない、そんな見た目の少年たちが売買をし稼いでいる。  だがしかし、この町では普通のことなのだ。 この穢れた町では、当たり前の光景である。  露斗宮はひとり考える。 この地獄を抜け出す方法はあるか...と。 だが自分一人ではどうしようもなく、こうして椅子に座り項垂れているだけの自分に腹が立つ。このまま堕落するくらいならば死んだほうがマシと、何度も未遂まで追い込まれたこともある。 それでも露斗宮に勇気はなかった。 逃げる勇気もなければ、死ぬ勇気すらないのだ。  薄暗い教室の中、今日も露斗宮はひたすらに耐え続けるのだ。
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