5人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
彼女は王子様
志多キラリは言った。
「私はキミが好きだ」
男装の麗人に憧れを持ち、男子より髪を短くし、誰よりも声の通りが良い彼女から高倉益恵は告白を受けた。
益恵はキラリからの告白に戸惑った。
なぜなら、会話したことがない、クラスも一緒になったことがない、一ミリも接点がないからだ。
「はあ、ありがとうございます」
益恵はとりあえず礼を言った。
キラリは変わってはいるが背が高く、ハスキーな声で密かに恋心を抱いているものは何人かいるからだ。
通っているのが女子高だから尚更だ。
だが、益恵には興味がなかった。
話したこともない相手を「キミ」呼ばわりするところと、宝塚の男役になりきっているような感じが益恵には好感が持てなかったからだ。それでいて「好きだ」という。
会って話をしたことないのに好きだなんて良く言うなとファンが聞いたら、どんな目に合うかわからないことを浮かべながら、キラリは帰ろうとする益恵の左手首を掴み、自分の元に引き寄せた。
益恵はその行動に怒り、キラリを突き飛ばした。
「何の冗談か、わからないけど、なんで私が貴女に好きだと言われているのかわからないんだけど。からかってるならやめて」
「そ、そうだよね! 私もうっかりしていたよ! じ、実は私……益恵さんに憧れていて……」
「意味がわからない」
「そう! その冷たいクールさ! ああ! なんて気持ちいいのだろう!」
キラリはM体質持ちなのだろうか。
益恵は自分の性格のせいで、人の趣味を変えてしまったと思うと、それはそれで悪い気分ではなかった。
(私が彼女を変えたのかもとからなのか気になるな。それなら……)
「志多さん、私、貴女と付き合います」
「え……? その……本当……?」
「私はこんな、しょうもない嘘はつかない。イヤなら取り消す。二度と私に近づけないようにする」
「つ、付き合ってください!」
キラリは益恵を前から抱きしめた。
甘い匂いが益恵の鼻腔をくすぐり、心臓が脈打った。
「離して」
「ご、ごめんなさい!」
「女子同士だからってセクハラはセクハラとして訴えるからね」
「は、はい……!」
キラリは子犬のようにシュンとした。
人気者を言うこと聞かせられるようになるの面白いな。
益恵の中に秘められたサディスティックが芽生えた。
最初のコメントを投稿しよう!