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 居酒屋を出ると雨が降っていた。  すぐ隣で雨の降る様子を見て英理奈さんが顔を顰めたその一瞬をオレは見逃さなかった。 「…どうかした?」 「大丈夫、何でもない、ちょっと雨が苦手なだけ、傘持ってる?」 「…あぁ、うん」  雨が苦手な理由が気にはなったが何となく今は聞ける雰囲気ではない。 「用意良いね」  彼女もバッグから折り畳み傘を出して開いた。  …しまった、傘が無いふりでもすれば彼女の傘に入れてもらえたのに。  出掛ける前に目にしたテレビの天気予報で「夜遅くから雨が降り出すのでお帰りが遅くなる方は傘の用意をお忘れなく」と気象予報士が言っていたので当然のようにお帰りが遅くなるつもりでいたオレは迷わず折り畳み傘をボディバッグに入れていた。用意が良い上に馬鹿正直な自分が嫌になる。  今さらどうにもならない。諦めてそれぞれ傘を差し歩き始める。  居酒屋から最寄りの駅までは徒歩で10分弱だったが、歩き出してものの3分程で急に雨足が強くなった。道行く傘を持っていない人達が慌てた様子で走り出す。一緒にいられる残り少ない時間をもっと堪能したかったがそれどころではない。傘を持っているオレたちも少し急いだ。だけど、駅に着く頃には傘を差していても全く意味が無い程に結局2人ともびしょ濡れになってしまっていた。 「やば、これで電車乗ったら迷惑かな」  まぁでもみんな似たようなもんか。同じようにびしょ濡れの人達が気にする事なく改札を潜って行く。   「英理奈さんどこの駅?このまま一人で帰すの心配だし送って行く」  下心が全くないわけではなかったが、あくまで冷静を装った。けれど英理奈さんからの返答がない。様子を伺うと、彼女は物憂げな表情でオレの方を向いてはいるが、視線が合わない。 「英理奈さん?」   「…すぐそこのマンションだけど、……来る?」
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