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 初めて発せられた彼女の声に思わずドキっとする。思ったより少し低めの凛とした声だった。  オレのバンドはオリジナル曲がまだ少ないこともあって時々カバー曲もセトリに入れている。ザ・ビートルズの『ヘルター・スケルター』は今までにも何度かライブで演ったが、こんな風に声をかけてくれたのはライブハウスの関係者か、たまたまその場にいたオレよりもかなり年上の男性か、ビートルズ好きの対バン相手くらいだった。オレよりは年上っぽいがまだ若くて、それもこんなキレイな女性に言われることはこれまでまず無かったので、それだけのことで妙にテンションが上がってしまう。 「ビートルズ、好きなの?」 「はい、かなり、好きです」  テンションは上がったが同時に謎の緊張感が襲ってきた。せっかく声をかけてくれたのに、やり直せるならもうちょっと気の利いた返しがしたかった。 「ライブ途中から入ったから最初の方聴けてなくて、他は全部オリジナル?」 「あ、そうです、良かったらCDあるんで……」 「そうなんだ、……じゃあせっかくだし貰おうかな」  すぐ近くの物販コーナーに置いてある自主制作のCDを1枚取って戻る。 「いくら?」 「いや、あげますよ」  うちのバンドのメンバーがこの場にいたらしばかれそうだな。 「ダメだよ、ちゃんとしないと。ちゃんと払うから」  真剣な顔で嗜められた。……そういうところも、良いな、この人。オレの周りには今までいなかったタイプの女性だ。 「500円、です」 「500円か、あ、良かったちょうどあった」  財布から500円玉を取り出しニッコリ笑う。 「はい、ありがとう。じゃバンドがんばってね」  そう言って彼女はオレの手からCDを受け取ると、さっと背を向け歩き出し、オレが半ば放心状態の間にとっくにライブハウスを出て行ってしまっていた。 「……おーい、大丈夫か?」   松本さんの声にハッと我にかえる。すっかり存在を忘れていたが、真横でオレと彼女のやりとりの一部始終を見ていた松本さんが呆れた顔でオレを見ていた。 「……まぁ、気持ちはわからんでもないけど、あの娘は、……やめといた方がいいよ」
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