4. myTuber盛り上がる

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4. myTuber盛り上がる

じゃあ、一緒に料理を食べましょう、とならないところが悲しい性。キクくんも俺も先に撮影しなきゃという頭があるから、デザートが済むまでは各々のテーブルで大人しく料理を堪能した。 食後のコーヒーを飲み終わり一息ついていると、キクくんが近寄ってきて、お互い一人ならラウンジカーで話ししませんか? と言ってきた。 ラウンジカーは列車の最後尾にあり、ガラス張りになっている。景色を見るためにわざわざ車窓に向けられた座席に座り、自己紹介する。 キクくんは大学生で、二十二歳。本名は菊池くんというらしい。菊池だからキク、という名前に俺が笑うと『僕センスないんですよ』とヘラっと微笑む。ああやっぱり可愛いな。バイトをしながら動画投稿しているらしい。 「宿泊費料金高いのに……よく泊まれるね」 とてもじゃないがバイトだけでは、この豪華列車に宿泊できるような稼ぎにならないだろう。 「あ、僕、広告料いただいてるんで」 なるほど……。キクくんに聞いて思い出したのだがたしかに登録人数が俺より断然多かった。人気なんだろうなー、と胸がモヤッたのは何故だろう。 「ユーイチさ……豊嶋さんも、動画投稿されてますよね」 「へ……」 「ホテルのレビュー。あまりお顔出されてないですけど。僕記憶力いいんです」 ボボっと顔が赤くなっていくのが自分でも分かる。まさかキクくんが見ていてくれたなんて! 「そ、そうです…」 「年下に敬語使わないで下さいよ。そうだ、ここじゃ他の人がいてあまり喋れないから、僕の部屋に来ませんか?」 キクくん、何で大胆な! って思ったけどまあ普通なら同性なら一緒でも不思議じゃないよな、と切り替える。 ラウンジカーから移動してキクくんの部屋に移動した。今回は、俺の部屋よりワンランク下の部屋のようで、シングルでベッドは可動式になっている少し硬めのものだ。 「毎回、高い部屋は無理なので」 今回は料理が季節限定のものだったから撮影するために乗車したのだと言う。それだけのために宿泊するのもすごいな…… それから俺らはお互いの動画を観ながら、編集テクニックなど色々話をする。同業者(?)と話をするのはこれが初めてだから、話が盛り上がって楽しい。 俺の読み通り、キクくんはそんなに電車に詳しくなかった。だから他の『乗り鉄』と少し違う感じがしたんだな。 電車での宿泊と食事がメインのようで、俺のチャンネルはおすすめで出てきたのを見てくれたらしい。 「いつも高級ホテルだから、どんなにお金持ちの人なんだろうって思ってました」 ペットボトルのお茶を飲みながらそう言う。実際にはせっせと仕事をして溜めていることを知ってキクくんは驚いていた。 「コメントにもよくそう書いてあるんだけどね」 「狙われてますねぇ。豊嶋さん、モテるでしょ」 「も、モテないよ……今だって恋人いないし」 俺は缶ビールを飲みながら、首を振った。 「へえ? 動画に少し写ってる横顔とか見てたらかっこいいなあって思ってたけどな。実際に会ったら背が高くて、大人って感じだし」 「そんなことないって」 もう、どうしてこの子は俺を喜ばしてばかりなんだろう…… 「そうだ。今まで泊まった中で一番のおすすめのホテルって、どこです?」 ここかなあと俺は自分の動画からチョイスした都内の老舗ホテルを見せた。 国内での知名度は勿論、海外でも評判が高いそのホテル。施設は若干古いが、庭の手入れやスタッフの気配りが完璧で、俺は撮影関係なく何度か宿泊していた。 「意外ですねえ。新しくて設備が整っているところではないんですね」 「ははは、それも勿論素晴らしいことなんだけどね、俺はここが好きだなあ。キクくんも泊まってみたらいいよ」 きっと気にいるから、と言うとキクくんは食い入るように俺の動画を見ていた。目をキラキラさせて。 「……一緒に泊まってみる?」 そう自分から言っておきながら、すぐしまった、と後悔した。男同士で泊まってどうするんだ。気持ち悪い、って思われるだろ! せっかくいい雰囲気で楽しんでるのに俺のばか!  そう思っていると、キクくんはスマホから目を話して俺の方に近寄ってきた。 「いいの? 僕、ここに一度泊まって見たいと思ってたんです。でもさすがに一人じゃ勇気出なくて!」 どんどん近寄ってきたキクくんに、思わず生唾を飲んでしまう。めちゃ押しが強い! だけど俺には当然、断ることなんて出来ない。 「分かった、じゃあ今度一緒に泊まろうか」 「やったー!」 まるで子供のように、キクくんはバンザイをする。こらこら、お腹が見えちゃってるよ。 本当になんの警戒もしないんだから……
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