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6.抱き枕にキス
その後、キクくんもシャワーを浴びてそれぞれベッドに横たわり、おしゃべりをする。たまに見えるキクくんの素足に、俺はまた体が疼くのを感じながら、なんとか耐えたのだ。そしてあくびが聞こえ出したので電気を消して寝ることにした。
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
俺はキクくんに背中を向けて寝る姿勢に入った。
目を閉じて、今日一日を振り返る。いつもより落ち着いた格好のキクくん。目を輝かせながら撮影する姿。ハンバーガーを美味しそうに食べる姿……ああ、可愛かったな、なんてふわふわする頭でそんなことを思っているうちに、ウトウトし始めた。
そしてどれくらい時間が経過した頃だろうか。
ギシっとベッドの軋む音がした。キクくんが寝返りでも打っているのかな、と思っていると不意に自分のベッドが揺れたので俺は驚いた。何かの重みでベッドが沈む。
そして背中に人の気配。キクくんが、俺のベッドに入ってきたのだ。しかも布団をめくって!
「き、キクくん?!」
眠気が一気に覚めて思わず声をかけると、後ろから声が聞こえた。
「いつも一人なんで、ちょっと嬉しくて……」
背中に感じるキクくんの胸の鼓動。そっと腕が回ってきて俺は抱きしめられるような形になった。
こ、これは一体どうしたらいいんだ?! 俺は平常心を保ちながら声を絞り出す。
「俺、抱き枕的な感じ?」
「ふふっ、そうですね」
ぎゅっと抱きしめられ、今度は太ももに足を絡めてきた。うおおい! 勘弁してくれよ!
だけど五分くらいその状態だったのでやはり抱き枕なのかとなんとか気持ちが落ち着いてきたのだが、今度はちょうど首筋にキクくんの息がかかってきてゾクリとする。
やばいって〜〜! このままじゃ、勃ってしまう!
俺は首を回し、背後のキクくんに話しかけようとした時、こちらを見ていたキクくんとバチッと目が合う。大きな茶色い瞳がこちらを見ている。カーテンを閉めなかった窓から夜景の明かりで、キクくんの顔がよく見え、俺は気がついた。
抱き枕じゃない。この目は、違う。
キクくんは目を離すと、俺の首筋にキスしてきた。
「ひゃっ」
思わず変な声を出してしまった。
「豊嶋さん、キスしたい」
俺の体から手を離して、上半身を起こす。俺を見下ろし顔を近づけてきたキクくんに思わず生唾を飲む。キクくんは酔っ払ったらキス魔になるタイプなんだろうか。
「キクく……」
俺の返事を待たずに、キクくんはそのまま唇を重ねてきた。一度軽く重ねてきた後、もう一度重ねてくる。そして舌を入れてきた。
「ん……ふっ」
大学生にリードされて、どうすんだ! なんて突っ込みながらも俺はもうどうなってもいいやと、その舌を受け入れた。
舌は口内を弄り、俺の舌をツンツンと突いてきた。絡めろ、と言わんばかりに。俺がそれに応えると勢いよく絡めあう。ジンジンとする頭と体。閉じていた目を開けると、キクくんは気持ちよさそうに目を閉じている。
ああどうしよう。これから先、どうしたらいい?
翌朝、気がついたら二人で一つのベットで爆睡していた。隣にはふかふかのベッドが寂しそうにしている。
キクくんはまだ起きない。緑の前髪から覗く寝顔を見ながら、俺は昨夜のことを思い出していた。
キクくんからのディープキスのあと、結局それ以上にはならなかった。キスしたことに満足したのか、何とキクくんはそのまま寝てしまったからだ。拍子抜けしつつも、少し安堵した俺はその後一人トイレで抜いたんだけどね。
何を思って俺にキスしてきたのか、分からない。やっぱり酒のせいなのかなあ……
だとしたら、誰にでもあんなキスをするのだろうか。チクリと胸が痛む。俺はキクくんの前髪を触りながらそんなことを考えていた。
「ん……」
触れられていたことに気付いたのか、キクくんがゆっくりと目を開けた。
「……おはよ」
一瞬、目をパチクリさせながら起き上がったキクくんは、部屋を見渡しようやく俺と泊まっていたことを思い出したらしい。
「おはようございます!」
キクくんは少しだけ照れ臭そうにして、窓から差し込む朝日と同じくらい眩しい笑顔を見せてくれた。
身なりを整えて、二階のレストランで朝食を取る。俺は洋食、キクくんは和食だ。意外だなあと思っていたら、朝はご飯派だと言った。このホテル自慢の庭を見ながらの朝食。撮影していたら、ホテルのスタッフがぜひ庭もお撮りくださいね、と話しかけてくれたので食後、散歩がてら庭を歩いてみた。朝の空気が気持ちよくて思わず背伸びすると『カシャ』っと音がして嫌な予感がした。
「また撮った?」
「うん」
「……まあいいよ、俺もキクくん撮っているから」
「え? いつ? 」
キクくんが慌てて俺の方を見る。
「教えない」
「ちょっと、見せてくださいよ!」
「だめ」
寝顔を撮っているなんて聞いたら、きっと消せっていうだろうな。
「豊嶋さあん! 見せてよ〜」
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