俺の髪型は異様

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「なあ、こいつの髪型って異様じゃない?」 隣の席のヤンキーが俺の頭を凝視しつつ、後ろの男子生徒に問いかけた。 俺は平静を装い無理やりに苦笑いを作ったが、宙に焦点を浮かべたまま返す言葉は出てこなかった。 高校一年の夏、体育終わりの教室内での出来事だった。問いかけられた男子生徒は、曖昧にヘラヘラ相槌をうつに留まっていたと思う。その反応が俺を理解させた。異様なのだ。 これがもしも「似合ってないよな」という表現であれば、もう少し自然に笑い返すことが出来たかもしれないし、裏を返せば改善の余地があるとい意味にも脳内変換できたのかもしれないが、異様という非日常的な表現は時を止められた感覚だった。ショベルカーで臓器すべてを抉り持ち去られた俺は、漠然と泣きたい、この場から逃げ出したいという感情を握りつ潰し、残りの授業を消化したのだろうと思う。お疲れさん。 そもそも俺は、自身の髪型が普通じゃないことは自覚していたのだ。ゆえに他人と正面から向き合うことを自然と避けていた。正面と真横(右側面は異様と指摘された角度)はなるべく他人からの注視点とならないように立ち振る舞っていた。そしてそれは、異様という自己認識を保持させられた瞬間から、俊敏さを増したに違いない。 ふと思い耽ったことがある。髪型に限らず、俺は他人の容姿を見て、未だかつて異様という表現を選択したことなんて無かったよな。たぶん。 「なんでなん、なんで俺だけ・・・なんなんよこの髪型。頭。」 こんなセリフを何度噛み潰し、何度と鏡に映る自身に吐露したことか計り知れない。 あとほんの少し額が広ければ、あと少し頭が短く小さければ、もう少し毛量が少なくて、贅沢を言うなればもう少し髪質が柔らかければ、と。持って生まれてしまった体質には抗えない。外的要因を駆使して対策に努めてきたものの、報われようもなく、そんな俺を嘲笑うかの様に幾度となく状況を悪化させてきた。 他人を羨み、自身に嘆き、親を恨み抜いた日々。逃げ道は無く、敵とのエンカウントを恐れながら生きている。
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