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力ずくで布団が剥がされ、浴衣の合わせ目に手がかかる。 「ッ!?」 真っ暗な天井を背にしてのしかかってきたのは、浴衣の裾から大胆に脚を覗かせた茶倉。問答無用で浴衣の襟を抜かれ、帯をしゅるしゅる巻き取られる。 「待って待ってまだ数珠濁ってねェし!」 「期待しとったくせに」 耳元で囁かれた艶っぽい声にぞくりとする。 確かに、そうだ。同じ宿の同じ部屋に泊まるんだから、こういうことになるだろうって予感はしていた。 俺は霊姦体質。定期的に茶倉に「除霊」してもらわなきゃ、瘴気のためすぎで体調を崩す。 前回の除霊は三日前、まだ数珠は綺麗なまま……当分はセックスしなくていいはず。 「そもそも男同士はアリなの?営み的に邪道判定されね?」 「試さなわからん、入れる穴が前か後ろかだけの違いさかいギリイケるんちゃうか」 「別に俺じゃなくてもよくね!?」 「ヤりたいん?ヤりたくないん?」 生唾の嚥下に伴い、浅ましく喉が鳴る。 答えは決まっていた。 「ヤリ、てえ」 実の所、俺は淫乱だ。高校ン時から数えて、茶倉とは十年以上セフレめいた関係を続けてきた。そもそもの始まりは悪霊に犯されたことで、以来ケツを掘られる快感にハマっちまった。 前だけじゃ満足できない。後ろも欲しい。茶倉が俺の胸ぐらを掴み、魔性の色香を含ませて嫣然と微笑む。 暗闇の中に一際大きくしめやかな衣擦れが響く。 茶倉が浴衣の帯をほどき、合わせ目をはだけて胸板をさらす。それを見ただけでとぷりと先走りが零れた。 「ッは、ぁっあ」 「だだっ子みたいにエロい声」 先走りがしとどに内腿を濡らす。茶倉の手が淫らに蠢いてペニスを育てる。気持ちよすぎて泣きたくなる。 「!んっ」 こめかみにチュッとキス。薄い皮膚を狙い定めて吸い立てられ、窄めた爪先でたまらずシーツを巻き込む。 茶倉は暗い所でしかキスしてくれない。それも何故か唇は避けている。 「ちゃく、らっ、もっとして」 自然と腰が上擦っておねだりする。 浴衣はしどけなく着崩れて申し訳程度に腰を覆うだけ、かえってエロい。茶倉が俺の後孔に丁寧にカウパーを塗し、ぬちゃぬちゃ指を出し入れ。 「んッ、くっ、ぁあっ」 たまらず茶倉の浴衣を掴んで催促する。後孔に抜き差しされる指が三本に増え、前立腺をピストンする。 太いペニスが後孔にめりこんで抽送開始、奥の奥まで犯されて頭が変になりそうだ。 「茶倉っすごっ気持ちいいっ、あぁこれすごっイッちまっ、ぁあっあ」 「浴衣ヨダレでべとべとやん。布団も……片しに来た中居になんて言い訳するん?」 ハイペースで追い上げられ目の裏がチカチカする。茶倉が腰を叩きこむたび脊髄に震えが走り、はしたない喘ぎ声が迸る。 「んッ、んッ、んんッ?」 視線を感じて顔をねじる。床の間に女の子が体育座りしていた。貞子みたいに真っ黒で長い髪の間から、爛々と輝く目がこっちを凝視してる。 「うわああああああああああああああああ!?」 座敷童子が即座に起立、タタタタタと部屋中走り回る。というか、主に布団のまわりで円を描いてる。 「茶倉でた座敷童子でた!」 「やかまし」 イく寸前で急激に萎えて縋り付きゃ、振りほどかれた上足蹴にされた。 『縛』 茶倉が腕を振り抜いて数珠を投擲、それが座敷童子の足首に絡んで締め上げる。 「ッ!?」 座敷童子がバンザイの姿勢でずっこける。びたんといい音がした。とりあえず裾を引っ張って股間を隠し、おそるおそる声をかける。 「大丈夫か?」 「動きを封じただけや」 「座敷童子に痛い事したら祟られねえ?」 「座敷童子ちゃうわ」 意味不明な発言に疑問符が浮かぶ。 座敷童子、もとい謎の女の子は足に絡んだ数珠を一生懸命外そうとしていた。しかし手こずり、べそをかきパニクってる。 茶倉は博徒みたいに浴衣を着崩したまま、伝法に片膝を立て女の子に迫る。 「お前、女将の水子やな」 女の子が凍り付く。 「は?」 俺も凍り付く。 茶倉は瞬きすらしない。 「水子って……この子はどー見ても五歳とかそこらだろ?」 「成長すんねん。まれに」 「そうなの?」 「死んだ子の年を数える親の未練が大きくすんねや」 女将さんが流産した子なら色々と辻褄が合う。女の子が着てるのは丸襟レースが可憐な白いブラウスとプリーツスカート、髪が長いのは生まれてから一度も切ってないから。俺がコケたのは女将さんを通せんぼしたタイミング。 「露天風呂で一緒になった爺さんが見たんは、着物でおかっぱの女の子っちゅー話やな。多分そっちが本物」 「その子はどこに?」 「うーんと前に出てったよ」 澄んだ声を見下ろせば、女の子が心細げに膝を抱いていた。 「あのね、座敷童子を信じる人がへっちゃったからよそへ行くって。だから私が代わりをしてるの、お部屋がからっぽになったらせっかく見に来てくれたお客さんやお母さんがっかりしちゃうでしょ」 けなげな言葉に胸が痛む。 この子は座敷童子の役目を交代したのだ、女将として旅館を支える母親の為に。 しんみりする俺の隣で、無神経が浴衣を羽織った茶倉がずばり聞く。 「Hを覗いてたんは」 「えっちって?」 茶倉の予定された失言を遮り、できるだけ穏便に訳す。 「裸の男の人と女の人が一緒にいるとこでドタバタしたろ」 「お相撲さんごっこにまぜてほしくて」 「あー……」 そうだよな、五歳児だもんな。そうなるよな。 「おにいちゃんたちもお相撲さんごっこしてたよね。下になった方が負け」 「うんそー俺の負け。茶倉山の勝ち」 「誰が力士じゃ」 棒読みで相槌を打ち、女の子の頭をなでようとして空振り。そうか、座敷童子にはさわれないのか。じゃあ気分だけでもとなでるまねをする。 「どうする?」 「ありのままに報告するしかないやろ」 「だよなあ……」 茶倉と向き合い相談中、大粒の涙をためた女の子が切実な表情で訴えてきた。 「お母さんや旅館のひとにはいわないで!座敷童子がいなくちゃみんな困るでしょ!」 この子はずっと母親や旅館で働く人の為を思って、座敷童子のふりをし続けてたのか。 必死さに胸が詰まり、しゃがんで目線の高さを合わせる。 「お母さんにだけこっそり伝えるんじゃだめか?」 頑是なく首を振る女の子。 「今も肌身離さずお守り持って、すっげー会いたがってる」 「……」 「ひょっとしたら座敷童子よりも」 「……言えない」 俯いた目にじんわり涙が浮かぶ。 「お母さんは嘘がきらいなの。お客さんをだますようなことは絶対しない。私が座敷童子じゃないってわかったら、ちゃんとそのことをいわないと気が済まない」 確かに、お客様第一主義の女将の性格上じゅうぶんありえる。裏を返せばそんな女将さんだからこそ、この子が尽くそうとしているのだ。 着物の皺を伸ばしながら茶倉を見る。茶倉は女の子を見てる。女の子がか細い声で懇願する。 「おねがい。ここにいさせて」 茶倉が出した結論は……
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