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「白、でその次が黒、その次はえーと、赤い車だと思う」
車が右から走ってくる。二車線の道を法定速度を守った車が次々と走り抜けて行った。
白い車、黒い乗用車、最後に赤い軽自動車。
その三台が私たちの目の前を通過していくのを確認すると、美紅は目をまん丸に見開いて驚いた。
「すごーい! え、なんでわかったの?」
「うーん、理由はわかんないんだけど、昔から私の特技っていうか。目をつぶると、次に自分の目の前を通る車がわかるの」
「じゃあさ、次は?」
美紅の言葉に応えるように、私は目をつぶった。真っ暗な視界の中に浮かび上がるワゴン車。白いハイエースだ。
「白のハイエース」
その数秒後、私の予言が当たるようにイメージしたものと全く同じ白いハイエースが右の方から走ってきて、目の前を通過していった。
「凄! ミク、凄すぎるよこれ!」
彼女は隣に座る私の腕を何度も叩いていて、興奮が収まらない様子だった。
「いや、でも凄いって言ってもこんなの何の役にも立たないからね。目の前を通る車の種類を当てられるなんていう能力あっても使い所もないし」
「そんなことないよ、凄い力じゃん! これは、ミクにしか出来ないことだよ」
何か大層なことを言われているように感じて、私は少しだけ照れた。
美紅に言われると本当に嬉しいから。
中学の頃から美人で頭も良く、男子からもモテていた彼女。一方、私の方は地味で頭も悪く、当然のことながら告白なんてされたことはない。
普通なら混ざり合うことのない同い年の私たちだが、偶然彼女が好きな漫画を私もよく読んでいたことをきっかけにして私たちは仲を深めていった。
小、中、と同じ学校に通い、高校も同じ私立校を受験した。美紅は何の苦労もなく受かり、それ以上の学校を受けようとしていたが、わざわざ私に合わせるようにこの高校を選んだようだった。
私は彼女の優しさになんとか報いたいと必死に勉強して、合格を勝ち取った。
高校へはバスで通う。美紅といつも同じ時間に待ち合わせをして、バス停にあるベンチに座るのが日課。他愛もない話をしながらバスを待つ。
そんなある日、私は美紅に自分が持っている不思議な力の話をした。
「目の前を通る車がわかる? へー」
初めはあまり興味を示さなかった美紅だったが、私が何度も連続で当ててしまうのを見て流石に驚いた様子を見せた。
何の取り柄もない私にある唯一の特技。
美紅を驚かせるためにしか意味のない力だ。
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