レンタルメモリー

3/10
前へ
/10ページ
次へ
警察二人はぽかんとした表情で店主を見た。 「……思い出の品を貸し出す、ということですか?」 白髪交じりの方が聞いた。 「いえ、思い出そのものです。」 「お、思い出そのもの!?」 今度は黒髪の方も喋った。 「ええ。タダで実物を見せてあげたいところですが……ま、こちらも商売ですので。」 店主は対価を求める様子は一切なく、むしろ「レンタルは諦めてほしい」とでも言うような口振りだった。黒髪の警察は「そうですよね。」と潔く答えた。しかし、白髪交じりの警察は更に詳しい情報を求めた。 「思い出というのは誰の思い出です?お兄さんの?」 「まさか。ワタクシの思い出など価値がございません。……それと、お兄さんと呼べる年齢でもないですよ。」 店主がそう言うと、警察二人は戸惑った。 「失礼ですがー……おいくつで?」 「少なくとも、お客さん達の年齢は越えていると思いますよ。」 「嘘!?」 「てっきり僕よりお若いかと……。」 唖然(あぜん)とする警察二人を見て、店主は目を細めて笑い、「ヒトは老けるのが早いですからね」とコメントした。 「まるで自分はヒトではない、とでも言っているようですね、お兄……店主さん。」 白髪交じりの警察が冗談めいたような口調で言うと、店主ははっとした表情をして、また元に戻った。 店主は答えた。 「言葉の綾、ですかね。」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加