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「アナタ、一体何を……!?」
店主は汗をダラダラ流しながら言った。
「何って……見ればわかるでしょ。」
「どうしてこんなことを……!」
「あんたが一番わかってるだろ!この悪魔め!」
横山と呼ばれていた黒髪の警察は声を荒らげ、店主に怒号を浴びせた。彼の感情が高ぶっていることは一目瞭然だった。
しかし、横山が並べているのは妄言ではない。
横山がこんな残虐な罪を犯した理由を、店主が一番知っていること。それから、店主が悪魔であること。
どちらも紛れもない事実だった。
「記憶をレンタルして以来、俺は今自分が他人であるのか自分であるのか、自分がなんなのか、他人がなんなのか、何もかもがわからなくなった……!!だからいっそ呑み込まれてしまおうと思ったんだ、人殺しの記憶に……!」
店主はすかさず、石井の"お願い"の通り、石井遥香の記憶と、石井の記憶を見せようとした。
「おい、約束の内容覚えてないのかよ?……犯人を捕まえる前に"寿命が来てしまったら"だろ?」
店主は息を呑んだ。確かに、その通りなのだ。石井の寿命は残っている。
無力さに苛まれた店主は、膝から崩れ落ちた。
「俺は殺したい程に石井が嫌いだった。でも本当に殺す気なんて起きなかった。……だから"人を殺す感覚"を味わうためにここに通ってた。自分じゃ得られなかった、特有の"達成感"を得たかったんだ。」
横山は店主の前にしゃがみ込む。
「なあ、店主……いや、悪魔。前に言ってたよな。"悪魔は約束を破ることは出来ない"って。"嘘を吐くことも出来ない"って。ヒトの記憶を操れたり、寿命の仕組みがわかったりっていうのは、当然ヒトには成せない業だ。……でもな、結局、約束を破ったり嘘を吐いたりすることが出来ないなら……ヒトより劣ってる。」
店主はただ、黙っていた。
「……俺は警察には捕まりたくない。捕まらずに時効を迎える方法を教えてくれ。それから……俺の記憶を誰にもレンタルしないことを約束してほしい。……"悪魔にも寿命はある"って、前に言ってただろ?約束しないなら……」
横山は店主の顔にナイフを向けた。
「……まず、今日の午後三時半までに✕✕市の廃工場へ行ってください。廃棄寸前の、凶器を隠すのに最適なパイプがあります。そして、今日の午後四時丁度に石井さんの死体をトロッコに乗せてください。重みでトロッコが動きます……そのトロッコの線路は途中で途切れていて、落ちたら崖の底です。」
「本当に嘘は吐いてないよな?」
「はい、悪魔は嘘を吐けません……。この方法に従えば、証拠は見事に隠滅出来ますし、アナタが捕まることもない……。」
「今は午後一時くらい……か。急いだ方がいいな。この巨漢はどう運べばいい?」
「……そこに、ダンボールと台車があります。石井さん程の大きさでも入れるかと……。……今から昼休憩でしょう?他の警察には休憩に入ると報告し、隠れながら運んでください。」
その言葉を聞いた横山は、すぐさま大型のダンボールに石井の死体を入れ、そそくさと店を出ていった。
ヤケに手慣れているのは、記憶のせいだろうと店主は思った。
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