レンタルメモリー

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リリリン…… ドアベルの可愛らしく、心地良い音が店内に響く。 それを聞いた店主は静かに眼鏡をかけ、ドアの前にいる客を見た。 「いらっしゃい。」 逆光により、ハッキリと二人分の輪郭が店主の目に映る。この店に来る客は大抵一人であるため、店主は少し驚いた。 二人の客は慣れた様子で胸ポケットから何かを取り出し、片方が語りだした。 「警察です。すみませんねー、客ではないんです、お兄さん。」 突き出された何かは警察手帳だろうと店主は思った。一体警察が何の用なのかと呆気にとられていると、もう片方も喋りだした。 「ええと、実は先日、この近辺でとある事件が起こりまして……聞き込み調査をしているんです。」 「ああ、なるほど。そんなことがあったんですね。」 店主はそう言い、腰掛けていた椅子から離れて警察の方へ歩み寄った。そして、忽然とこう言った。 「良ければ、上がって行きませんか。……というより、上がっていただけませんか。お願いします。」 眉を下げて頼む店主を見て、警察二人は不思議そうに顔を見合わせてから「はい、ではお邪魔します。」と答えた。 リリリン、とまたドアベルの音が響いた。
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