It was rainy too.

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 歯を食いしばって手にしたアルバイト代は、気付けばいつも父親のギャンブルと酒に消えてゆく。積み上げられたごみ袋の山。無残に転がる瓶。腐敗臭。そして繰り返される雨の音。その日ついに、私は扉の外に飛び出した。横殴りの大雨の中、行く宛など知らないままに走っていく。  駅前の中華料理屋に辿り着く頃には、既にずぶ濡れになっていた。雨足は速く強くなる一方で、傘はほとんどその役割を果たしていない。中華料理屋から放たれる香ばしい匂いが私の鼻にこべりついたように離れなくなり、思わず私は店の扉を開けた。  簡素な店内にはほとんど客は居なかったが、一人だけ、赤い髪の男が美味しそうに麻婆豆腐を食べていた。 「こっちへ来いよお嬢ちゃん。誰かと一緒に食う、麻婆豆腐は絶品だ!」  誘われるように、手を引かれるように、私は彼の縁に導かれていった。
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