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(ビルの屋上。階段を駆け上がってきた男)
男 はぁはぁ…やっと見つけた。
女 っ!?
男 こんな屋上で何してるんだよ…。
女 やめて、近づかないで!
男 おい、まさか飛び降りるつもりじゃないだろうな?
女 うるさい…私の勝手でしょ。
男 …
女 私は世界に必要とされていないんだ…。
男 なんでそんなことっ!
女 家族にも見放され、友達と言える人もなくて…もう嫌なの。
男 …
女 こんなことなら、もういっそ…。
男 …だめだ。
女 …は?
男 俺がいるだろ!
女 !
男 あんたが飛び降りたなんて知れたら、俺が上に怒られるんだよ。
女 はぁ…?何その理屈。これは私の人生よ?
あんたの処分なんて、正直、どうでもいいわ!
男 …えぇ?
女 もう、限界なのよ。孤独も…足も腰も。
じゃあね。お先に失礼。あの世で会いましょう。
男 いや、まて!
女 なに?邪魔しないで。
男 えっと…そうじゃなくて…俺…。
女 言いたいことがあるなら、はっきり言いなさいよ。
男 お…お願いだ!
飛び降りる前に、保険金の受取人を、俺の名前に変更してくれ!
女 はっ!何かと思えば、これだから素人は!
保険金の受取人は、配偶者か血縁者よ?
私の保険金が欲しけりゃ、まずは籍を入れることね!
男 え…えぇ…?
女 ほら、どうするの?
私をこのまま見殺しにするか、籍を入れるか、早く選びなさいよ!
――咲子の書いた小説の話、ここまで――
――以下、リアルの咲子と、介護士の松田の会話――
男:介護士 松田30代
女:利用者 咲子80代
男 おはようございまーす!ディサービス・極楽浄土です。
今日もいいお天気ですねぇ。
咲子さん、体調お変わりありませんか?
女 おぅ、来たね、松田。
今日は、とっておきのを揃えてあるよ。
男 あ!それもしかして新作ですか?
俺、咲子さんの書いたラブストーリー好きなんですよ。
女 あぁ。一本、試してみるかい。
男 え?読んでもいいんですか?
えーと、タイトルは…わぁ達筆!
「愛されたい~姥捨てラブと保険金~」
…この男性、もしかして、モデルは俺ですか?
そして、この圧しが強くて、絶妙にリアリティーがある女性は…
咲子さん?
女 …ババァの戯れさ。迷惑だったかい?
男 いいえ!咲子さんの作品のお相手役なんて、超役得ですよ!
へぇ~「私をこのまま見殺しにするか、籍を入れるか」…?
うーん、そうだな。俺だったら…
「咲子さんと一緒にお墓に入りたいんですけど、
いつなら空いてますか?(決めぜりふっぽく)」
…いや、ダメだな!俺、文才なかったです。ははっ。
すみません、咲子さん…
女 (倒れる音)おっ…おっ…!
男 咲子さん!?大丈夫ですか!しっかりしてください!咲子さーん!
女 (倒れる音)推しが、今日も…尊い…っ!
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