1 再会

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「それは失礼しました。これからは大人の女性として接しなければなりませんね」  その言葉に芹香はドキッとした。あんなに傷付いたのに、もしかしたらと心のどこかで期待してしまう自分がいた。  私ったら何を馬鹿なことを考えているのかしら……! この人は何年経っても変わらない、私の気持ちなんてわかってないし受け入れるはずがない。そんな人に期待をしたらまた傷付くだけ。私はもう同じ轍は踏まないと決めたの……。  芹香は顔を上げると、父の顔をキッと見つめた。 「……私は明智さんのそばにいるだけでいいんですね?」 「あぁ、その通りだよ」 「わかりました。父の頼みですし、お引き受けします」  するとその瞬間三人がにこりと微笑んだので、芹香はまるで罠にかかった動物のような気分になった。  今日だけよ。そばで立っていればいいだけのこと。たとえ罠だとしても、今日だけは我慢するわ。 「明智さん、会場には皆で移動するのでそちらで合流しましょうか」 「わかりました。では後ほどお迎えにあがります」  秀之と誠吾の会話が終わると、芹香は勢いよく社長室を飛び出した。 * * * *  芹香がいなくなった部屋の中で、三人は顔を見合わせてホッとしたように息を吐いた。 「ちょっと強引だったかな」  秀之が髪をくしゃくしゃと掻きむしりながら、ソファに腰を下ろす。そんな彼を見ながら、父は首を横に振った。 「あの子はあの日以降かなり警戒心が強くなっているからね。あれくらい強引じゃないと引き受けないだろう」  苦笑いをしながら誠吾の顔を見ると、彼もまた頷く。 「たぶん今も納得せずに悶々としていると思いますよ。それに……芹香さんは私を嫌っているようにも思えるので、本当は私は適任ではないような気もしますが……」  誠吾が言うと、二人は顔を見合わせて笑い出す。 「そんなことはないです。様々な事情を考慮した上で、やはり明智さんが適任だってことになったんですから」 「それにこちらとしては、出来れば内密に事を進めたい。それには明智くんの知恵が必要不可欠だからね。芹香はむしろ……いや、まぁそれはいいとして、とにかく芹香を頼んだよ」 「……わかりました」  誠吾自身もどこか言い(くる)められたような気持ちになりながらも、今は仕事をこなすだけだと自分自身に言い聞かせるのだった。
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