2 魔の手

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2 魔の手

 パーティーの会場であるホテルに到着すると、既に誠吾がロビーのソファに座って待っていた。  兄と共に彼のそばまで歩いていくと、二人に気付いた誠吾が立ち上がって手を挙げた。 「すみません、お待たせしました」 「いえ、私も今来たところですから」  二人が言葉を交わす間、芹香は俯いたままバッグを握る手に力を込める。  車に揺られている間、ずっと考えていた。……。どんな時でも家族がそばにいたということを思い出し、急に不安に襲われたのだ。  小学生の頃に勉強を教えてもらっていた時は、確かに部屋の中に二人きりだった。でもあの頃とは違う。  きっと彼に告白をした時が最後なんだわ……そう考えると、何を話せばいいのかもわからなくなる。天気の話、家族の話、仕事の話……違和感なくやり過ごせるかしら……。 「じゃあ芹香。明智さんのサポートを頼んだよ」  芹香はハッとする。あぁ、そうだわ。私は明智さんのサポートのために来たんじゃない。余計なことを考える必要なんてないの。 「えぇ、わかってる」  芹香が答えると誠吾と秀之は顔を見合わせて頷き合い、それから兄は会場の方へと歩き出した。しかし兄を見送る芹香を、誠吾はじっと見つめていたため芹香は困ったようにそっぽを向いた。 「な、なんですか……」  緊張から、つい言葉がぎこちなくなる。 「あぁ、すみません。とてもよく似合っているなと思っただけです」  彼の目が芹香のドレスに向いていたことがわかり、恥ずかしくなって下を向く。紺色のフレアースカート、袖が同色のレースの素材のドレスだった。決して派手なデザインではなかったが、それを褒められたものだから頬が熱くなる。長い髪をアップにしていたこともあり、首まで赤くなっているのではないかと心配になった。 「あ、ありがとうございます……」 「いえ、もし良かったらこちらに座りませんか? 開場までまだ時間がありますし、少しお話しておきたいこともあるので」  誠吾がソファへと促したので、芹香は頷いてからなるべく彼との間に距離を置くようにして隣に腰を下ろした。
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