2 魔の手

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「今日は引き受けてくれてありがとうございます」 「いえ……父の会社に関する大事な調査なんですよね? それなら協力するのは義務のようなものですから。それで……具体的に私は何をすれば良いのでしょうか。このままだと本当に立ってるだけになってしまいます」  すると誠吾は真面目な顔になり、ロビーを行き交う人々の姿に目を凝らす。その中には二人が知っている顔もあり、これからパーティーへと足を運ぶに違いなかった。 「……ある程度の証拠は固めましたからね。あとはその人物が妙な動きを見せる前に、ボロを出すのを確実な証拠として収めたいんです」  そう言うと、さりげなくジャケットの胸ポケットを芹香にだけ見えるように開くと、そこにはスティック型のレコーダーが見えた。 「あなたには危険が及ばないよう、細心の注意を払いますから安心してください」  芹香はゴクリと唾を飲む。もっと簡単な案件だと思っていたが、父も動いていることだし、芹香が思っているよりも大きな事件なのかもしれない。  そう思うと複雑な心境ではあったが、父の会社のためにも誠吾に協力しなければならないと決心もつく。 「そのためにも、決して私のそばから離れないようにしてくださいね」 「……わかりました」  その時誠吾は胸ポケットの中へと手を差し入れると、そこから長細い小箱を取り出した。そしてそれを芹香へと差し出す。 「これは……?」 「今回ご協力をいただくことへの、少しばかりですがお礼です」  誠吾の優しい笑顔に心を乱されながら、芹香は受け取った小箱をそっと開ける。すると中には立体的なゴールドのバラの中にピンク色の石があしらわれたネックレスが入っており、キラキラと輝きを放っていた。 「可愛い……」  芹香の心を鷲掴みにしたデザインに、思わず笑みが漏れる。 「やっと笑顔を見せてくれましたね」  その瞬間、ハッとして唇を噛んだ。隙を見せてしまった自分自身に苛立ちを覚え、咄嗟に彼に背を向けた。   「貸してください」  誠吾は芹香の手からネックレスを取ると、背後から芹香の首元に手を伸ばす。 「えっ……あの……!」  首筋に吹きかかる誠吾の息遣いと素肌に触れる彼の手の温かさに、芹香の身体中がゾワゾワと震えた。 「芹香さんがネックレスをつけていなかったのは好都合だったな」 「……襟元にパールの飾りが付いていたからいらないかと思って……」 「こっちを向いて」  突然敬語が消えた誠吾の口調に戸惑いながら、ゆっくり彼の方へと向きを変える。すると誠吾の視線が真っ直ぐに芹香を捉えていたので、息が止まりそうになった。 「うん、よく似合ってる。良かった」 「あ、ありがとうございます……。でも、私はただそばにいるだけなのにこんな素敵なものをもらうなんて……」 「いいんです。是非受け取ってください」  どうしてそんなふうに優しくするの……放っておいて欲しいのに……今もこんなに嬉しくなるのが悲しいかった。
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