1024人が本棚に入れています
本棚に追加
* * * *
芹香が再び目を覚ますとそこは温かく明るい室内で、目の前には心配そうな表情を浮かべた両親の顔があった。
「芹香……!」
「お父さん……お母さん……」
「心配したのよ……良かった……本当に良かった……!」
泣きじゃくる二人の背後では、兄と誠吾がその空間を見守るかのように静かに立っていた。誠吾の姿が目に入った途端、気を失う前の出来事が夢ではないことを実感する。
「私は誘拐されたの……?」
唐突な娘からの質問に両親は明らかに狼狽えていた。
「い、今はそんなことはいいじゃない。あなたが生きて戻ってきてくれただけで私たちは嬉しいのよ」
「そうだよ。何も考えずにゆっくりと休みなさい」
それは肯定の意味ね……芹香は悔しさの余り涙が溢れた。
「ごめんなさい……私のせいで……お父さんとお母さんに……たくさんの人に迷惑をかけちゃった……本当にごめんなさい……!」
「芹香……大丈夫だから、心配しなくていいからね……」
「でも……!」
そこへ誠吾が近付いてくると芹香と両親は口をつぐみ、彼の方に視線を向ける。誠吾は昔と変わらぬ穏やかに表情を浮かべると、父親の方へと向き直る。
「社長、そろそろよろしいでしょうか?」
そう言われると、父はハッとしたような顔になる。立ち上がると、誠吾に場所を譲るかのように彼の背後にまわる。
「あぁ、そうだったね。申し訳ない。じゃあ芹香、私は仕事に戻るが母さんは外で待っているから」
「えっ……それって……」
芹香の言葉が終わらないうちに、両親は誠吾に娘を託して病室から出て行ってしまった。どこか不安げな芹香の横に、誠吾は椅子を持ってきて腰を下ろす。
それから芹香の頭を撫でながら優しく微笑んだ。
「少しだけ事件についての話を聞かせて欲しいんです。芹香さんも疲れているだろうし、長くはならないようにしますので……構いませんか?」
「……わかりました」
「よし、じゃあまずは君が目を覚ましたことを看護師の方に伝えないと。少し待っていてくださいね」
「……お願いします……」
誠吾は頷くと、ナースコールを押した。
最初のコメントを投稿しよう!