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「……住宅街の中にある小さな神社の横の道でした……一台の白いワンボックスが停まっていて、横をすり抜けようとしたら突然ドアが開いて黒い服の男たちが出てきたんです。細い道だから逃げることも出来ずに……口を押さえられて……それからはわかりません。目が覚めたらあの小屋の中にいたんです」
「……犯人の人数はわかりますか?」
「……車から降りてきたのは二人でした」
「ということは、運転手を含めて三人以上の可能性が高い……。他に気になった点などはありますか?」
あの時のことを思い出そうとすると怖くなる。だけど今も頭を撫でてくれている誠吾の手の温かみを感じると、その不安もほぐれていくようだった。
「ごめんなさい……今はこれくらいのことしか……」
「いいんですよ。十分情報をいただけましたから。時々私もこちらに伺いますので、また何か思い出したことがあれば教えてください」
それから誠吾は内ポケットから名刺を取り出すと、その裏に自身の連絡先を記入し始めた。そしてそれをベッドサイドの棚に置くと立ち上がる。
「いつでもいいので、何かあれば連絡してくださいね」
「……わかりました」
もう行ってしまうんだ……そう思って少し寂しげな顔をした芹香の頭を、誠吾は再びそっと撫でる。
「あなたが無事で良かった」
それから芹香が目を伏せている間に、誠吾はまるで風のように病室からいなくなってしまった。
怖かったはずなのに、いつの間にかそれに代わる感情が湧き上がっている。それは連れ去られている間の記憶が全くないからかもしれないが、だとしても眠っていたはずの感情が瞬く間に目覚めてしまった。
「どうしよう……」
これからどうすればいいのだろう……複雑な感情が胸の中を渦巻く。彼は仕事、私の個人的感情なんてきっと迷惑なだけ。
そう思うのに、脳裏に焼き付いた彼の笑顔を取り払うことは出来なかった。
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